先生、運営が仕事してくれません!

紫堂 涼

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はじまりの地

再び運営のターン!

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「うっふふふふぅ」
 にまにまとしながら、社内随一ずいいちの美女がキーを叩く。
「あん?何してんのー?」
 ふらりと男が近付くと、見て見て、と身体をずらし目の前の画面を指差す。
「……とんでもないものを盗んでいきました。――何だこれ」
「可愛子ちゃんにつけてみたの。今度はちゃんと効果付きよぉ」
「へーどんな効果」
「――私たちが、彼の行動がわかる効果v」
 きゃぴっ、とわざとらしい仕草をしながら告げた彼女に……周辺の社員が一気に動く。
「「「グッジョブG J!!」」」
 皆して彼女を振り返り、見事に揃って親指を立てている。
「可愛子ちゃんが何するかわかるんだなこれで」
「可愛子ちゃんがどこいくかわかるんだなこれで」
「可愛子ちゃんがより可愛くなる姿が追えるんだなこれで」
「これで思いのままにストーキングできるんですね!」
 一人はもうオブラートに包んでない。
「良い仕事したわぁ……私」
 ――誰一人として彼女の行動に疑問を抱く者がいない。
「ダメだ、この人たち……」
 いや、一人だけいた。地味な青年が片隅で頭を抱えている。

「それにしても、妙な称号名だなぁ」
「あら、だって可愛子ちゃんってば、しっかり盗んでいったじゃない?――私達のハートを」
 一斉にこくこく頷く大人共が恐ろしい。よくやったの言葉が飛び交う室内で、諦めきった目をした青年が、他の称号一覧を見て微妙な顔をする。

「……変わった称号ばっかじゃないですか。普通はこう称号ってのは『深淵しんえんを知るもの』とか『護り手』とか『神速』とか『漆黒の~』とかみたいな感じじゃないですか?」
「嫌ぁよ、そんな厨二病じみた名前」
 つまらなさそうに唇を尖らせる姿は麗しいが、青年には鋭い攻撃だ。
「うっ……」
 お前は厨二病だと言われたも同然の返しに、青年が胸を抑える。
 だが、青年の言ったような称号でなくとも、現在つけられているような称号は誰も欲しはしないだろう。
 悪ノリしまくってる名前の数々を見ていると、まだ厨二病じみた称号のほうがマシに思えてくる。

「お、そういえば『ポリスメーン』の称号やった奴から変えてくれってメールが来てたから、仕様ですって返しておいたぞー」
 ひらひらと手を上げながら告げる男に、青年はまたか、とうなる。
「どうっして、先輩はそうテキトーなんですか!!可哀想じゃないですかそのプレイヤーさんが!!」
「えーだってそいつだけじゃねぇじゃんよ」
 どれも似たようなもんだから、仕様で間違ってねえ。
 悪びれず、そう答える男に、青年の拳がふるふると震える。
「それに、このままの方が面白いからな。……俺が」
「天誅ぅうううう!!」

「あら、またやってるわ。仲良いわねぇ」
 男に殴りかかる後輩の姿を見ても、日常日常、ともう誰も反応もしない。
「それにしても、減らないわねぇ……カルマ値」
 もうちょっと情報調べてもいいんじゃないかしら?とぼやく彼女に、痛そうに腹を押さえたままの男が笑いながらまた自爆する。
「採取情報、門番にしたもんよ。いっやーすげえすげえ、皆門番スルーしてくんだもんよ。たいていのゲームって門番相手にされないから可哀想で設定したんだが、やっぱりここでもスルーされてんのよ」
 しかも好感度が少しでも上がらないと詳しい事は教えてもらえない仕様、とカラカラ笑う男が再び後輩の拳の餌食になる。
「またあんたか!!」
「ちょ、おま。先輩をもっと敬え!痛ぇんだぞこれでも!!」
 ぎゃいぎゃい騒いでいる二人に、美女は長く魅惑的な足を組み替えながら告げる。
「あら、私もちょっとは情報与えたわよ?……道掃除の女の子と、酒場の二階でぽつんと座ってるおじさまに」
 町の片隅で、ひたすら掃除してるだけの少女と、酒場の奥の部屋でただ一人杯を傾けている中年という微妙なNPCを思い出し、青年はその無茶振りに力尽きる。
「……終わってる。あんたら皆終わってる」
 誰がそんなん話しかけるんだよ、と崩れ落ちる青年を慰めるものなど居はしない。

 変態的なまでにこの世界を愛する面々が、せっかく生み出した生物を殺されたいわけがなく、カルマ値を上げないようにするには、この世界の住人NPCと交流し、情報を得て、正しい方法で戦う採取する事で経験値を稼ぎ、あちこちに隠してある戦闘クエストをこなすのが強くなる最短ルートなのだ。
(こんな情報の出し方されて、誰がわかるか……っ!!)
 しゃがみこんでいる青年の叫びは誰にも届かない。

「まあでも、いいんじゃない?カルマ値上がっても」
「そうだよなー俺達の参戦が待ち遠しいな」
「わたしたちの子供をあんなに殺しちゃったんだもの。お仕置きは必要よねぇ?」
「もちろんだ。腕が鳴るよ俺も」
 不穏な二人の会話に、この先のアップデート内容を知っている青年はプレイヤー達のことを思う。
(……プレイヤーの皆さん、あんまり殺さないで下さい。この人たち鎖に繋いでおけません)
 自分の力無さと、後に降りかかるであろうプレイヤーへの災厄を思い、青年はただ一人涙した。

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