先生、運営が仕事してくれません!

紫堂 涼

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はじまりの地

プレイヤー達の悲鳴

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「あーっもう、レベルあがんねぇ!!」
「それにお金も貯まらないのがきついよぉ~」
 草原の敵は、ラビー、コリル、プレーリーキャットの三種類だ。森に足を踏み入れる前にはもう少しレベルを上げておきたいところだ。

「……って、ラビーが一番経験値でかいってどうよ」
 草原の中で一番弱い敵。それがラビーだ。
 ラビリー草だけを切り取った場合、それが一番経験値の上がりが良いのだ。
「他のやつも、ちゃんとしたやり方あるんじゃない?」
「だけど、それやったら採取スキルばっかがあがって、剣のスキルが上がんねぇからなー」
 
 武器系スキルは、一定数をその武器を使って倒すと発生する。
 格闘系スキルは、素手でやはり一定数を倒すと発生する。
 魔法系スキルは、町にある図書館の魔法書の読破で発生。
 製造系スキルは、何がしか作品を作り上げた次点で発生。
 娯楽系スキルは、釣りなら何かを一匹釣り上げた時、音楽なら一曲演奏した時とハードルは低い。

 スキルにレベル表記は無いが、そのスキルを使えば使っただけ成長する。
 そして一定量成長すると、そのスキルに応じたパラメータが上がるのだ。
 単にベースのレベルだけを上げるより、スキルも合わせて育てたほうが望むパラメータの上がりが早い。そう、武器系のスキルであれば習熟度に応じてSTRが上がったり、製造系だと器用さDEXが上がったりするのだ。

 だから経験値が少々減ろうとも、俺たちはラビーをそのまま倒す方向で進んでいた。
 開き直り採取しまくって、ベースレベルを上げまくるという手もあるが、そうなると先で行き詰まるだろうし……と、試行錯誤の日々である。

 称号というものも出てきて、回復魔法を覚えた奴が辻ヒールをしまくってたら、何故かナースっていう称号なんてついてた。
 何か違うと当人は嫌がっていたようだが……PKしまくってた奴にはシリアルキラーとか、PKKにはポリスメーンなんて勝手につくものだからたまらない。
 PKしてた奴は妙に喜んでいたらしいが、PKKは勝手に変な称号が付いて格好悪い……格好悪い……と運営に抗議メールを何通も送っていたのを俺は知っている。
 
「お金もねぇ……そもそも換金が面倒なのよねー」
 ラビーは薬屋、コリルは道具屋、プレーリーキャットは肉屋だ。
 ラビーはまだそれなりの価格で引き取ってもらえるが、プレーリーキャットなんて二束三文だ。食肉用なんだろうが、安すぎて装備も整えられない。
 狩りを終えるたび、何ヶ所も巡るのは面倒でならない。かといって、どこか一ヶ所で全部売るとかなり買い叩かれる。
 しかも、納品に行くとたいてい睨まれるのだ。
 うちのパーティーはスキルを上げるため、採取法の知られているラビリー草もラビーごと倒しているせいで、薬屋の視線が痛い。
 それを気にした所で、ラビー以外は正しい採取法自体がまだわかってないので、どうせ睨まれるならと、開き直って普通に倒している。

「せめて最低限、前衛はチェーンメイル、後衛は皮鎧くらいは揃えたいんだが、武器を先に買ったせいで、まだ金足りねぇしなぁ。……ったく、何匹倒しゃいいんだか」
「攻略組はもう次の町に行ってるのにねぇ……どんだけ狩りまくったか知らないけど、あたしらも頑張らないと。でも火魔法でしとめたらコリル以外値打ち下がるのよねー」


 実の所、一部攻略組はラビリー草をひたすら採取しDEXを上げ、海岸近くで崖登りをして掴みを鍛えSTRと少量のDEXを上げた。さらにはプレイヤー同士の対戦PvP敏捷AGI頑強VITを底上げしていた。
 知性INTが必要な魔法職は、ひたすら図書館で勉強だ。何でもいいから読書をすればINTがあがるし、新しい魔法を覚えるにはより難解な魔法書を読破しなければならないのだから。ゲームしてる気がしない……とは、現時点最強の魔法使いの少女の言葉だ。

 すでに、スキルによる技の派生など無いと気付き始めている攻略組は、望むバランスになるようにスキルを取り、それにより得た高い身体能力で独自の技を編み出すことに余念がなかった。
 基本ステータスに関しては、普通に訓練しても上がることは判明しているが、やはりスキルがあった方が伸びが良いので、攻略組のスキルは変な並びをしている。やたらとDEXが上がるスキルが多いのは、技を作ろうとしている攻略組は早々に気付いていていたからだ。
 ――システムの補助が無いのだから、身体を理想通りに動かすためには高いDEXが必要なのだと。

 余談だが、このIWOには幸運LUC魅力CHAといったパラメータは無い。
 運は、努力でどうにもならないから運なのであって、カリスマ(魅力)なんて、持って生まれた能力でしょ!と断言したある運営の主張があったとかなかったとか……


「これ、運営攻略させる気ねぇだろ。どんだけ希望出しても修正かけねーし」
「ダメダメ、仕事しないからここの運営」
「ですよねー」
「ですよねー」


 * * * * *


「もう嫌ぁあああああ~っ」
「でも、光る苔もっといるんでしょ?あんた薬師希望なんだから」
「だって、だって、もう気持ち悪いぃいいい」

 道具屋で合羽を買って夜の洞窟に採取に来ているのだが、未だに慣れない。
 調薬スキルを上げるため、最初は昼間にある薬草を調合していたが、すぐに伸び悩んでしまい、今は魔力回復用の薬を作っているのだが、その材料の一つの光る苔が曲者だった。
 夜にしか光らないから、採取は夜限定だ。
 だけど、夜の洞窟には……ブラッディーバットがいる。
 合羽の上からでも、血塗れになるのは気持ち悪いし、しかも一定時間経つと、ブラッディーバットはぼとぼとと落ちて足元を埋め尽くすのだ。
 血塗れの蝙蝠と、真っ赤に染まる地面、血臭に満ちた薄暗い洞窟でひたすらに苔をむしる。何てシュールな光景だ。
 しかもこのブラッディーバット、嫌なことに……買い取ってもらえないのだ。
 最初に落ちてきたブラッディーバットを数匹を売りにいったら、どこの店からも買い取り拒否だ。

「もう、薬師やめるぅううう~耳つきラビーを抱っこしてもふもふする~」
「って、もふもふして何になるのよ」
「一匹連れ帰って町でずっともふもふする~」
「それ引きこもってるだけじゃないのよ。ここまで頑張ったんだから。さ、行くわよ」
「いぃやぁあああああ~~っ!!帰るのぉおお~~おうち帰るぅうううう~~!!」

 友人の強制的な手助けのもと、彼女はしっかりと魔法薬を作り上げたのは言うまでも無い。


 * * * * *


「……なあ、間違ってもここで釣りだけはするんじゃねーぞ」
「何でよ。道具屋に竿売ってたから俺やるつもりだったんだけど」
「それ買う前について来い。――説明するより、見るんが早い」

「…………気持ち悪ぃ」
 NPCの釣り人が釣り上げた魚もどきを見て、知らなかった方の男は口元を押さえる。
 びっちびっちと跳ねる魚にはすね毛びっしりの足がついていた。しかもムキムキだ。

「お、おやっさん、今日はよくメスが釣れるな」
「おお。卵も美味いからなー夕飯が楽しみでたまんねぇや」

 会話につられ、怖いもの見たさで目を向けると、びったんびったん跳ねるそれは、鳥の卵のような、殻に覆われた丸いものを太腿で挟み込んでいる。

「この殻がまた、美味いんだよな。ぱりぱりしてて」
「何だよ、おやっさん俺にも一つくらいご馳走してくれてもいいんじゃね?」
「仕方ねぇなあ、一個だけだぞ。ついでに今日は大漁だ。足も一本くれてやるよ!」
「太っ腹だねぇ、おやっさん!!ごちになりまっす!」

 楽しそうな会話を背に、絶対このゲーム内で釣りなんてしない、と……リアルは釣り仲間の二人は固く誓った。


 * * * * *


「助けてぇえええええええ!!」
 のんびり海でも見るかなーと、パーティメンバーがそろわない今日、一人ここに来たのが間違いだった。

 話をするタコが壁にびっしりついてて、ロッククライミングに誘われたのを断った途端……壁にはりついていた何十匹ものタコが一気に襲い掛かってきて、攻撃できないうちにずるずると変なところにつれてこられた。
 下は海。
 しかも、叩きつけられたら即死レベルの高さにいる。
 上は落ちてきそうなほど突き出た崖。
 そして、その崖にしがみ付いている自分と、逃がさないよう周りを囲むタコの群れ。

「崖を馬鹿にする者は崖に泣く」
「最後まで上りきったら元の場所に戻してやろう。さあ登れ」
 のーぼーれ!のーぼーれ!とタコが唱和する。
「頂上に着く頃には崖の素晴らしさがわかる。さあ登れ」
 再び唱和され、高いところは怖いし、恐怖に手はぷるぷるするし、タコ多すぎて怖いし、なにこれいじめ状態だ。
「きゃああああっ!!」
 手に力が入らなくて、まっさかさまに落ちる。
 恐怖に固く目を閉じていたら、ふわりと落下が止まる。
「危ない危ない」
「大丈夫?大丈夫?」
 助けられたことと、優しい言葉にもういいのかとほっとして――すぐにその一瞬の期待は叩き落される。
「さ、登ろう」
 登ろう登ろう。

 その瞬間、私は登りきる以外に道がない事を知った。


 * * * * *


「兄貴……」
 憧れのコボルドに弟子入り志願の三人組は、今日も森の中で見えぬ姿を思い途方に暮れる。
 あの頼れる背中を追い求めても、素早さゆえにか影も形も見えず。
 質問掲示板に問い合わせをかけてみても、意味深な事を書かれただけでおわった。
「早いうちに会えるって言われたのによぉ……」
「諦めるのはまだ早い。いくら兄貴がこの森に入っていったからといってここに居るとは限んねぇじゃねえか」
「リーダー……」
「森を抜けたその先にあるって町でまた、情報集めりゃいいだろ」
 意外とあっさり見つかったりするかもしれねぇし。そう続けるパーティーリーダーの言葉に、二人の目に輝きが戻る。
「そう、そうっすよね!俺、兄貴に弟子入りを認めてもらうまで諦めねーっす!」
「俺も俺も!!」
「もちろん、俺もだ」
 最後をリーダーが締めくくり、元気を取り戻した彼等は次の町で目にした光景に途方に暮れたのだが、その理由は――また、後ほど語ろう。

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