先生、運営が仕事してくれません!

紫堂 涼

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はじまりの地

第七話

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 崖を登り終え、力尽きログアウトした佐久弥が繋いだのは、一眠りした翌日だった。

「今日は先へ進むかな」
 ずっとここにいたのか、佐久弥がログインした途端、ずりずりとスライムが這い上がってくる。そして、腰に差している剣がふわふわと花を飛ばしまくる。
(なに、この大歓迎ムード)
 寂しかったと全身であらわす奴らを邪険にすることもできず、ぽんぽんと撫でながら移動をする。
 いったん町へ戻り、色々と準備をする予定なのだ。

「お邪魔しまーす」
 ひょい、と顔をのぞかせると相変わらず老婆は忙しそうだ。
「ああ、勝手に使ってな」
 その言葉に甘え、佐久弥は小部屋でちまちまと練習用ではない薬を作り始める。
(だいぶ数もそろったな)
 回復薬、毒消し、魔法薬とそれぞれをアイテム欄に放り込んでゆく。採取したものは全て薬に変えてしまった。
 今までに作った練習用も含めればそれなりの数があるので、これで何かあってもある程度は対処できるだろう。
「あー……防具とかどうすっかな」
 森を抜けてしまえば、情報はない。スタート地点のこの周辺には、襲い掛かってくるような生物はいないため、自分が攻撃を仕掛けない限り問題は無かったがその先はわからない。
 だが、どうも出会う生き物が妙なのばかりで、戦う気にはなれない。
(そもそも、採取しかしてないからLV1のままだろうし)
 何気なく指を滑らせ、ステータスウインドウを開いた佐久弥は信じられないものを見て凍りつく。


 * * *

 サクヤ LV12

 【スキル】
  ・テイム
  ・採取
  ・調薬
  ・探索
  ・釣り
  ・掴み

 【称号】
  ・初心者の中の初心者
  ・NPCの友
  ・とんでもないものを盗んでいきました

 【状態異常】
  ・呪(解呪不可)

 【同行者】
  ・スライム
  ・Unknown(装備)

 * * *


「うぅぇええええええっ!?」
 何もかもがわからない。
(何だこれ何だこれ何だこれ!!)
 スキルはまあ、わかる。身に覚えあるし、最後の掴みはきっと崖登りのせいだろう。あんだけ岩を掴みまくればそりゃスキルも上がろう。
 NPCの友もまあ、いい。町中どころか、町の外にいるNPCにまで話しかけまくったのだ。まあ、わかる。
 同行者のUnknownは剣しかない。こいつしかない。ただ――

(何を盗んだと!!)
 剣?それくらいしか思い当たるものはないが、あれはあっちからやってきたわけだし……あれって、俺の罪になるわけ?
「意味が、意味がわからない……」
 がっくりと項垂れ、力なく呟く。
(そして、呪って何だ呪いって!!)
 必死に記憶を探るが、やはり思い当たるものがない。呪われそうな魚の足を食ったからか?いやでも、あれ普通っぽかったし!!
「も、いいや……」
 身体に不調は無いから気にしないことにする。
「でも呪われてるって何か嫌だなぁ……」
 ぽつりと呟くと、ぶるっ、と腰に差していた剣が震える。
「…………おい」
 低い声で佐久弥が呟くと、腰の剣が激しく震えはじめる。
「お前かぁあああああ!!」
 ついにぼろぼろ泣き出した剣に確信する。
「どんだけ粘着質なんだ!!」
 佐久弥の言葉にさらに泣きながらも、絶対離れないという感情は駄々漏れだ。

「も、いい。ほんとに、もう、いい……」
 色々諦めたから。
 もうこの世界、考えてもわからないものは、わからない。そういうものなんだ。
 ふふふふふ……と乾ききった笑みを漏らしながら、佐久弥は立ち上がる。
(少しはこの世界に慣れたつもりだったけど、甘かったな)
 そんな事を思いながらウインドウを閉じる。
 LV1の頃と違い、他の能力値も上がっていたけど、もうどーでもいい。
 レベルが上がっていたことも、こんなに色々ついていた事さえ何の告知も無いのだ。何かするたびに調べるのも面倒だし。どうせ気が付いたらまた色々変なものが付くだけだろう。
(気にしたら負けだ)
 ふら~っとした足取りで佐久弥は老婆に挨拶をし、しばらく遠出する事を伝える。
「こっちに来たら、絶対に顔だしな。良い材料持って来たら、また新しい薬を教えてやるからね」
「有難うございます、その時はお願いします」
 餞別に質の良い、高級回復薬をアイテム欄に無理やりねじ込まれながら、薬屋を後にする。
 もう、NPCに勝手にアイテム欄に物を入れられても動じる事はない。そういうもんだ。

 町を出るまえに、元気かどうかが気になって北の洞窟へと向かう。
 どうもたまに顔を見にいかないと、奴らは全滅してそうで不安になる。
「元気か~?」
 隠し扉を潜ると、嬉しそうにキュウキュウと合唱がおこる。
「しばらく、ここから離れるから、顔見に来たぞ」
 うりうりと、ふかふかの毛皮を撫でながら、ガリガリ削られたメンタルを回復する。
「ん?」
 キュイキュイ小さな塊が集まって話し出す。
(意味なくね?)
 見事な円陣を幾重にも描いているが、これだと一番後ろの奴らにゃ聞こえてない気がする。……というか、聞こえてないらしい。会話してるのは中央部分の奴だけだ。
「キュ!」
 何かが決まったようだ。
 血にまみれてなきゃ、可愛いよな。こいつら癒しだよな。と気長に眺めていた佐久弥の前で、中央部分のコウモリが、こくこく頷く。
「キュ、キュキュキュ!」
 一匹がてとてとと佐久弥の前に歩み出てきて、よじ登ってくる。
(まさか……)
 さっき確認したばかりのテイムというスキル名が頭をぎる。
「キュッキュッキュッ」
 さあ行くぞ、とばかりのコウモリと、別れの挨拶とばかりに飛び回る他のコウモリを見て、悟る。
「……拒否権は、ねえんだな、きっと」
「キュッキュッキュッ」
 ご機嫌に鳴く姿に腹をくくる。もう一匹も二匹も三匹も構わない。構うだろうが構わない。気にしちゃいけないのだから。
「元気でな~血ぃ吐きすぎるなよ~」
 心配して顔を出した自分の選択ミスだ。
 そう諦めた佐久弥は、力なく手を振り、洞窟を後にする。もちろん扉はきっちり閉めた。

 一歩、洞窟を出た途端……コウモリがぱたりと地に落ちる。
 慌てて影を作ろうと服の中に突っ込むと、もぞもぞ動かれてくすぐったくてたまらない。
 必死に笑い声を抑えながら道具屋へ駆け込み、フード付きのマントを購入する。
 800Rの散財だ。
 かといって、これくらいのものでないと、光を通してしまうので意味が無いのだ。
 フードの中にコウモリを投げ込み、さらにフードの上にはスライム。首元が擽ったいわ、相変わらず視界は垂れたスライムで不明瞭だわで、色々辛い。
 予想外の事が多すぎて、旅立つ前に力尽きそうだ。

 門番にも旅立ちの挨拶をする。
「そうですか、寂しくなりますね」
 彼は、自分が旅立ったあともずっとここに立っているのだろう。少しでも門番に話しかけてくれるプレイヤーが増える事を密かに祈る。
「森を抜ける前に、少しだけ鍛えておいた方が良いですよ」
「いや、一応生き物は殺さない方向でいきたいんで……」
 そんな佐久弥の返事に、嬉しそうに門番は目を細める。
「でしたら、よけいにしておいた方が良いです」
 逃げ足が上がれば、余計な戦いは避けられるでしょう?の言葉に、佐久弥も乗り気になる。
 無為な戦闘は避けたいが、かといって死にたいわけでもないのだから。
「……と、いうわけです。是非行ってみてください」
「…………はい」
 最後の最後に、門番にまでダメージをくらい、微妙な顔をした佐久弥は、遠い目をしながら頷いた。
「それでは、また」
 手を振る門番に振り返しながら、佐久弥は教えてもらった場所へとまっすぐに向かう。


 そう、目指すは森の傍、――――コリル道場だ。
  
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