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獣人の町
第十二話
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大通りから外れた場所に座り込む三人。
――その場には重い沈黙が流れていた。
「…………」
とりあえずテイムらしきものをしたスライムとコウモリ。偶然見つけた呪い付きの剣、さらにはコリル道場や、そのコリルの配置変換。そして大蜘蛛やドラゴンの事まで話し尽くした佐久弥は、黙り込んでいる二人が復活するのをのんびりと待つ。
「ドラゴン。ドラゴンの詳しい居場所教えてくれ兄貴。情報料も出す」
復活した瞬間、咲が真面目な顔で言い出したのがこれだ。
「……あの話聞いて戦いを挑もうとするお前が鬼にしか思えないんだが俺は」
「意思の疎通が成り立つなら問題ない。頼み込んだらコリル道場じゃないが、訓練に付き合ってくれるかもしれないじゃないか、是非とも戦いたい!!」
目を輝かせながら言い募る。
何となくその反応は予想していた佐久弥は、頷く。
「無駄に喧嘩吹っかけないなら構わない」
「約束する!!」
いよっしゃー!!と拳を振り上げる咲の姿を佐久弥は生暖かい目で見守る。相変わらずで何よりだ。
「蜘蛛!!俺蜘蛛んとこ行きたい!!くっそー……どうして蜘蛛倒しても採取できないのかって悩んでたのに、何だよそれ」
悔しそうに舌打ちする拓也に首を傾げる。
「うん?何でお前は糸欲しいんだ?」
「俺生産走ってんの。自分で作って、自分で使う。戦える職人!」
このドレスも俺の自作!!と自慢気に告げる拓也に、佐久弥は遠い目をする。
「あ~……お前、顔に似合わず細かい事得意だったよな」
佐久弥の母親が編んでいたマフラーを失敗した時、丁度遊びに来ていた拓也が、ちゃっちゃと編みなおしてやっていたのを思い出す。見た目とのギャップのせいもあり忘れられない記憶だ。
そりゃレース編みでも何でもござれだよな、と佐久弥はこちらも承諾する。
その後はあれこれ雑談しているうちに、そういえば……と咲がちょいちょいと佐久弥の腰元と首元を指し示す。
「兄貴はその子らには名前付けてあげないのか?」
スライムって名前もどうかと思うけど……とばかりに渋い顔をした咲が問う。
「ん~……そうだなー。うし、決めた」
一瞬で決めた佐久弥に、咲の顔が一瞬引き攣る。
「ちょっと待……」
「お前は、キューキュー鳴くから『キューちゃん』で、お前は花飛ばしまくってるから『花子』な!!」
我が兄の名付けのセンスを思い出した咲が止めるよりも早く、すでに命名は行われた。
「……それ、きゅうりの漬物」
「……それ、トイレのオバケ」
咲と拓也から不評をもらう。だがそもそもスラリーにスライムと名付け、自分の名前もカタカナにするだけのような男だ。
佐久弥は何の問題も無いとばかりのドヤ顔だ。
「大丈夫だ、アルファベットじゃないから問題無い」
カタカナの方が目立つんだけど……あの商品。との咲の言葉も聞いてない。
「よろしくなーキューちゃん、花子!」
それぞれを撫でつつ告げる佐久弥に、二人は諦めの境地だ。
二人曰く可哀想な命名を終え、佐久弥達は三人連れ立って森へと戻る。
「サクヤはこのままソロでいくのか?」
咲に問い掛けられ、佐久弥はあっさりと頷く。
「このゲームなら楽しめるんじゃないかって、例の店長に言われてはじめただけだから、やっぱ他のプレイヤーと組むのはなぁ」
気が進まない。と顔に出す佐久弥にあっさりと咲も頷く。
「遊びでまで人に気を使いたくないって言ってたもんな。仕方ないね」
「えー何だよーこれでせっかくサクヤとも遊べるって思ってたのによぉ」
ぶーぶー文句を言っている拓也も、佐久弥の性分は知ってるのでそれ以上は食い下がらない。
「まあでも、手が要るときは声かけてくれれば手伝うよ」
「俺もー。さっくんの為なら、頑張っちゃうゾ☆」
「きめえ」
がっつり拓也の頭に拳を入れながらも、佐久弥は目を細め笑う。
「あんがとな、二人とも」
たしかにこうして二人と遊ぶのは楽しいが、二人のプレイスタイルとはかけ離れているので常時というのは無理だろう。
自分も我侭だが、こいつらにもせっかくだから自分らしく楽しんで欲しいのだ。
「お。兄貴が目細めてる。ご機嫌だ」
「笑顔もらいましたー!!」
「うるせーよ」
「「照れちゃって」」
見事なユニゾンをスルーして、佐久弥は奥へとすたすた歩み去る。
そんなこんなで、色々話しているうちにドラゴンの居た場所に辿りつく。
「ここらなんだが……やっぱ居ないな」
へし折られていた木も再生しており、念のため近場を巡ってみたがあの目立つ巨体は見当たらない。
「ん~……一定条件満たしたらとかかな?」
思案するように顎に手を当てている咲に、これといって変な事はしてないが……と返すと一蹴される。
「サクヤは変な行動しかしてない」
……納得がいかない。
「俺もどうかーん」
……やはり納得がいかない。自分にしてみれば見た目一つとってもこいつらより普通にプレイしている気がするのに。
「とりあえず、蜘蛛の方行くか」
二人の了承を得て、そのまま洞窟へ向かうと――ずらりと大蜘蛛が列を成す。
「やった!取り放題!!」
拓也が勢い良く飛び込むと、蜘蛛たちがささっ、と身を引く。
「あんれぇ……?」
出鼻を挫かれた拓也が戸惑っていると、蜘蛛が円陣を組む。
(違う、さすがに違うよな!!)
一瞬嫌な予感が走るが、ここでは頼まれて行動しただけだから、変な結果にはならないはずだ!
佐久弥が必死にそう祈っていると、蜘蛛が再び列を成しはじめる。
(何だろう……?)
全員、妙な蜘蛛の行動に悩むが、まずは目的を果たす事に決めた。
「おおう、すっげーなこれ」
くるくると小さな手で器用に糸を巻く姿は、佐久弥と違い堂に入っている。
少し警戒していた蜘蛛も、今では拓也の頭の上にあの長い足と小さい本体でどっかりと居座っている。
わっしゃわっしゃと足が応援するように動いている。
ご機嫌な拓也と、試しにと自分も糸を巻いている咲を眺めながら、佐久弥はキューちゃんとスライムと戯れていた。
(あれ……?)
ふと手を下ろすと、そこらがぐっしょりと濡れていた。
「…………」
まさか、と花子の柄に手をかけると――
『ひどい、ひどい、花子なんてひどいぃいいいいいいい』
よし、聞かなかったことにしよう。
『もっと格好良いのか、可愛いのがよかったぁああああああ』
手を離そうとしたら、言い足りないのか自分から手にくっついてくる。
(ほら、お前よく花飛ばしてるから。……よく似合ってると思うぞ)
実のところそれ以外浮かばないとも言うのだが。
『本当?似合う?似合う?可愛い?』
(……似合う似合う)
あえて可愛いの部分への回答は避けて答える佐久弥に満足したのか、今度は花を飛ばし始める。
『可愛いって言われた~似合うって~』
可愛いなんて言ってないと浮かびかけた思考を慌てて散らす。
(そ、そうだな……)
何で俺はプレイヤーに気を使うのが嫌でソロプレイしているのに、無機物に気を使っているのだろう。
考えても考えても理不尽なこの状態に、佐久弥は考える事を止めた。
「終わったか~」
列が無くなったのを見て取り、佐久弥が二人に問い掛けると満足そうに頷いている。
「ならいったん戻るか」
どちらも異存が無いらしく、恒例のわしゃわしゃした見送りを受けた佐久弥達は、町を前にして……困惑していた。
目の前には羊。
ふわふわもこもこの羊。
そろそろ夕方に差し掛かる光を浴び、きらきらと黄金色に輝くその毛は美しく艶やかだ。
見ているだけで柔らかさの伝わってくるような毛。
自然と伸ばしそうになる手を留めているのはただ一つ。
――その面構えだ。
片目のざっくりとした傷がまたその顔に箔をつけている。
「ああん?何だぁ?お前ら……」
し ゃ べ っ た
考えてみれば前の町には意思の疎通が出来る生物はいるものの、会話が成り立つような生物はタコ以外居なかったから油断していた。
(そういえばこの世界……人以外もしゃべってたんだった)
固まっている佐久弥たちをちらりと見ると、羊は大きく一つ頷いた。
「わかってんよ。……何も言うな、言わずともわかってんだ、俺ぁ」
(何か、わかられている!!)
何一つ自分たちはわかっていないのに、この羊にはわかってるらしい。
どさり、とその羊はその大きな体を横たえ、こちらに鋭い流し目を送る。
「もっふもふさせてやんよ……来な」
あまりに堂々としたその誘いに、佐久弥は己の誘惑を振り切る事が出来なかった。
ふら……ふら……とその魅了に抗う事もできず、その羊の目の前に近付くと――ダイブする。
「なんって……何て極上なこの手触り!ふかふかとして、それでいて柔らかく……絹のような……いや、絹なんてもんじゃない。今まで体験したことのないこの手触り!!――ああ、癖になる……」
「兄貴何言ってんだ!……ま、まあちょっとだけ……」
佐久弥の異常に叫んだ咲もまた、誘惑にかられ近付き……
「こ、これは……この滑らかな感触!暖かな陽だまりに包まれているような……ああ、このまま眠りたい……」
「お前ら何やってんだよ!……って、そんなに気持ち良いってんなら俺も……」
最後まで誘惑に抗っていた拓也も、開き直って駆け寄る。
「うっぉおおお!なにこれすげえ!すげえよ!やっべぇ一家に一匹!!浚いてぇ!!」
三人して遠慮なくもっふもっふして満足した頃には、ぼ~っとしていた。
「幸せだな……」
「幸せってこういうことを言うんだな、よくわかったよ……」
「言葉に出来ねぇ……」
感触を反芻してはうっとりとしている三人に野太い声がかかる。
「兄ちゃんらは良い奴っぽいから、またして欲しけりゃ……来な。ああ、だが俺はお持ち帰りできねぇよ。俺を持ち帰るなら……セクシーな美女でもなきゃ無理ってもんだ」
またな。
そう告げて去る羊の姿が見えなくなるまで、三人して見送った。
「今の……何だったんだ」
ぼうっとしたまま佐久弥が告げると、似たような表情をした二人も続ける。
「幸せだった、それだけで良いじゃないか兄貴」
「そうだな……出会えた幸福を噛み締めるしかねぇよ、これは……」
この日、IWO最強生物の一種。眠り羊に心を奪われたプレイヤーが三人増えた。
――その場には重い沈黙が流れていた。
「…………」
とりあえずテイムらしきものをしたスライムとコウモリ。偶然見つけた呪い付きの剣、さらにはコリル道場や、そのコリルの配置変換。そして大蜘蛛やドラゴンの事まで話し尽くした佐久弥は、黙り込んでいる二人が復活するのをのんびりと待つ。
「ドラゴン。ドラゴンの詳しい居場所教えてくれ兄貴。情報料も出す」
復活した瞬間、咲が真面目な顔で言い出したのがこれだ。
「……あの話聞いて戦いを挑もうとするお前が鬼にしか思えないんだが俺は」
「意思の疎通が成り立つなら問題ない。頼み込んだらコリル道場じゃないが、訓練に付き合ってくれるかもしれないじゃないか、是非とも戦いたい!!」
目を輝かせながら言い募る。
何となくその反応は予想していた佐久弥は、頷く。
「無駄に喧嘩吹っかけないなら構わない」
「約束する!!」
いよっしゃー!!と拳を振り上げる咲の姿を佐久弥は生暖かい目で見守る。相変わらずで何よりだ。
「蜘蛛!!俺蜘蛛んとこ行きたい!!くっそー……どうして蜘蛛倒しても採取できないのかって悩んでたのに、何だよそれ」
悔しそうに舌打ちする拓也に首を傾げる。
「うん?何でお前は糸欲しいんだ?」
「俺生産走ってんの。自分で作って、自分で使う。戦える職人!」
このドレスも俺の自作!!と自慢気に告げる拓也に、佐久弥は遠い目をする。
「あ~……お前、顔に似合わず細かい事得意だったよな」
佐久弥の母親が編んでいたマフラーを失敗した時、丁度遊びに来ていた拓也が、ちゃっちゃと編みなおしてやっていたのを思い出す。見た目とのギャップのせいもあり忘れられない記憶だ。
そりゃレース編みでも何でもござれだよな、と佐久弥はこちらも承諾する。
その後はあれこれ雑談しているうちに、そういえば……と咲がちょいちょいと佐久弥の腰元と首元を指し示す。
「兄貴はその子らには名前付けてあげないのか?」
スライムって名前もどうかと思うけど……とばかりに渋い顔をした咲が問う。
「ん~……そうだなー。うし、決めた」
一瞬で決めた佐久弥に、咲の顔が一瞬引き攣る。
「ちょっと待……」
「お前は、キューキュー鳴くから『キューちゃん』で、お前は花飛ばしまくってるから『花子』な!!」
我が兄の名付けのセンスを思い出した咲が止めるよりも早く、すでに命名は行われた。
「……それ、きゅうりの漬物」
「……それ、トイレのオバケ」
咲と拓也から不評をもらう。だがそもそもスラリーにスライムと名付け、自分の名前もカタカナにするだけのような男だ。
佐久弥は何の問題も無いとばかりのドヤ顔だ。
「大丈夫だ、アルファベットじゃないから問題無い」
カタカナの方が目立つんだけど……あの商品。との咲の言葉も聞いてない。
「よろしくなーキューちゃん、花子!」
それぞれを撫でつつ告げる佐久弥に、二人は諦めの境地だ。
二人曰く可哀想な命名を終え、佐久弥達は三人連れ立って森へと戻る。
「サクヤはこのままソロでいくのか?」
咲に問い掛けられ、佐久弥はあっさりと頷く。
「このゲームなら楽しめるんじゃないかって、例の店長に言われてはじめただけだから、やっぱ他のプレイヤーと組むのはなぁ」
気が進まない。と顔に出す佐久弥にあっさりと咲も頷く。
「遊びでまで人に気を使いたくないって言ってたもんな。仕方ないね」
「えー何だよーこれでせっかくサクヤとも遊べるって思ってたのによぉ」
ぶーぶー文句を言っている拓也も、佐久弥の性分は知ってるのでそれ以上は食い下がらない。
「まあでも、手が要るときは声かけてくれれば手伝うよ」
「俺もー。さっくんの為なら、頑張っちゃうゾ☆」
「きめえ」
がっつり拓也の頭に拳を入れながらも、佐久弥は目を細め笑う。
「あんがとな、二人とも」
たしかにこうして二人と遊ぶのは楽しいが、二人のプレイスタイルとはかけ離れているので常時というのは無理だろう。
自分も我侭だが、こいつらにもせっかくだから自分らしく楽しんで欲しいのだ。
「お。兄貴が目細めてる。ご機嫌だ」
「笑顔もらいましたー!!」
「うるせーよ」
「「照れちゃって」」
見事なユニゾンをスルーして、佐久弥は奥へとすたすた歩み去る。
そんなこんなで、色々話しているうちにドラゴンの居た場所に辿りつく。
「ここらなんだが……やっぱ居ないな」
へし折られていた木も再生しており、念のため近場を巡ってみたがあの目立つ巨体は見当たらない。
「ん~……一定条件満たしたらとかかな?」
思案するように顎に手を当てている咲に、これといって変な事はしてないが……と返すと一蹴される。
「サクヤは変な行動しかしてない」
……納得がいかない。
「俺もどうかーん」
……やはり納得がいかない。自分にしてみれば見た目一つとってもこいつらより普通にプレイしている気がするのに。
「とりあえず、蜘蛛の方行くか」
二人の了承を得て、そのまま洞窟へ向かうと――ずらりと大蜘蛛が列を成す。
「やった!取り放題!!」
拓也が勢い良く飛び込むと、蜘蛛たちがささっ、と身を引く。
「あんれぇ……?」
出鼻を挫かれた拓也が戸惑っていると、蜘蛛が円陣を組む。
(違う、さすがに違うよな!!)
一瞬嫌な予感が走るが、ここでは頼まれて行動しただけだから、変な結果にはならないはずだ!
佐久弥が必死にそう祈っていると、蜘蛛が再び列を成しはじめる。
(何だろう……?)
全員、妙な蜘蛛の行動に悩むが、まずは目的を果たす事に決めた。
「おおう、すっげーなこれ」
くるくると小さな手で器用に糸を巻く姿は、佐久弥と違い堂に入っている。
少し警戒していた蜘蛛も、今では拓也の頭の上にあの長い足と小さい本体でどっかりと居座っている。
わっしゃわっしゃと足が応援するように動いている。
ご機嫌な拓也と、試しにと自分も糸を巻いている咲を眺めながら、佐久弥はキューちゃんとスライムと戯れていた。
(あれ……?)
ふと手を下ろすと、そこらがぐっしょりと濡れていた。
「…………」
まさか、と花子の柄に手をかけると――
『ひどい、ひどい、花子なんてひどいぃいいいいいいい』
よし、聞かなかったことにしよう。
『もっと格好良いのか、可愛いのがよかったぁああああああ』
手を離そうとしたら、言い足りないのか自分から手にくっついてくる。
(ほら、お前よく花飛ばしてるから。……よく似合ってると思うぞ)
実のところそれ以外浮かばないとも言うのだが。
『本当?似合う?似合う?可愛い?』
(……似合う似合う)
あえて可愛いの部分への回答は避けて答える佐久弥に満足したのか、今度は花を飛ばし始める。
『可愛いって言われた~似合うって~』
可愛いなんて言ってないと浮かびかけた思考を慌てて散らす。
(そ、そうだな……)
何で俺はプレイヤーに気を使うのが嫌でソロプレイしているのに、無機物に気を使っているのだろう。
考えても考えても理不尽なこの状態に、佐久弥は考える事を止めた。
「終わったか~」
列が無くなったのを見て取り、佐久弥が二人に問い掛けると満足そうに頷いている。
「ならいったん戻るか」
どちらも異存が無いらしく、恒例のわしゃわしゃした見送りを受けた佐久弥達は、町を前にして……困惑していた。
目の前には羊。
ふわふわもこもこの羊。
そろそろ夕方に差し掛かる光を浴び、きらきらと黄金色に輝くその毛は美しく艶やかだ。
見ているだけで柔らかさの伝わってくるような毛。
自然と伸ばしそうになる手を留めているのはただ一つ。
――その面構えだ。
片目のざっくりとした傷がまたその顔に箔をつけている。
「ああん?何だぁ?お前ら……」
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考えてみれば前の町には意思の疎通が出来る生物はいるものの、会話が成り立つような生物はタコ以外居なかったから油断していた。
(そういえばこの世界……人以外もしゃべってたんだった)
固まっている佐久弥たちをちらりと見ると、羊は大きく一つ頷いた。
「わかってんよ。……何も言うな、言わずともわかってんだ、俺ぁ」
(何か、わかられている!!)
何一つ自分たちはわかっていないのに、この羊にはわかってるらしい。
どさり、とその羊はその大きな体を横たえ、こちらに鋭い流し目を送る。
「もっふもふさせてやんよ……来な」
あまりに堂々としたその誘いに、佐久弥は己の誘惑を振り切る事が出来なかった。
ふら……ふら……とその魅了に抗う事もできず、その羊の目の前に近付くと――ダイブする。
「なんって……何て極上なこの手触り!ふかふかとして、それでいて柔らかく……絹のような……いや、絹なんてもんじゃない。今まで体験したことのないこの手触り!!――ああ、癖になる……」
「兄貴何言ってんだ!……ま、まあちょっとだけ……」
佐久弥の異常に叫んだ咲もまた、誘惑にかられ近付き……
「こ、これは……この滑らかな感触!暖かな陽だまりに包まれているような……ああ、このまま眠りたい……」
「お前ら何やってんだよ!……って、そんなに気持ち良いってんなら俺も……」
最後まで誘惑に抗っていた拓也も、開き直って駆け寄る。
「うっぉおおお!なにこれすげえ!すげえよ!やっべぇ一家に一匹!!浚いてぇ!!」
三人して遠慮なくもっふもっふして満足した頃には、ぼ~っとしていた。
「幸せだな……」
「幸せってこういうことを言うんだな、よくわかったよ……」
「言葉に出来ねぇ……」
感触を反芻してはうっとりとしている三人に野太い声がかかる。
「兄ちゃんらは良い奴っぽいから、またして欲しけりゃ……来な。ああ、だが俺はお持ち帰りできねぇよ。俺を持ち帰るなら……セクシーな美女でもなきゃ無理ってもんだ」
またな。
そう告げて去る羊の姿が見えなくなるまで、三人して見送った。
「今の……何だったんだ」
ぼうっとしたまま佐久弥が告げると、似たような表情をした二人も続ける。
「幸せだった、それだけで良いじゃないか兄貴」
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