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獣人の町
第十一話
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「……まさか、サクヤがIWOしてるなんてなぁ」
驚き覚めやらぬままの男が、佐久弥を見下ろす。
「あれだけ誘ったのに、一回もVRゲームしようとしなかったのにぃ~なーんで教えてくれなかったのぉ~?」
ぷん、とむくれた少女が口を尖らせながら告げる。
「…………」
佐久弥にはもう、この二人が誰かはわかっていた。
どれほど姿を変えようと、それぞれにその面影は残っていたからだ。
――友人と妹。
互いにVRゲームの面白さを佐久弥に何度も語っては一緒にプレイしようと誘いをかけてきていたのを、佐久弥は同じ数だけ断っていた。
それなのにいまだに諦めず誘いをかけていた二人だったからこそ、佐久弥がこの場にいるのに心底驚いているようだ。
「サクヤはソロで動いてるのか?……というか、その頭の上のは何だ」
スラリーを見た事が無いのか、不思議そうに佐久弥の頭の上のスライムをつつく男が、不思議そうに首を傾げてはまたつつく。
スライムが嫌がってフードの中にコウモリと一緒に潜り込むと残念そうに手をひっこめている。
こちらは、見慣れた布の服の上に防御力を重視していそうな鎧をつけ、身の丈もありそうなほどの大剣を背にしていて貫禄は十分だ。
佐久弥に似た漆黒の髪と、黒い瞳。浅黒い肌は鋭い視線と相まって少々強面だ。
「さっくんってば水臭いよぉ~はじめるなら、言ってくれれば最初っから、手とり足とり腰とり!説明してあげたのにぃ~☆」
きゃはっ、と笑って告げる少女は、自分で作ったのか、誰かに作ってもらったのかは知らないが、最初の布の服とは全然違う可愛らしいドレスを着ていた。
ひらひらとした裾には多くのレースが施され、身動きするたびにふわりと翻る。
ふわふわと波打つ金の髪は柔らかに幼い頬を縁取っていて、今は尖っている桜色の唇もまた柔らかそうだった。
「…………」
二人が話す間ひたすら黙りこくっていた佐久弥が、おもむろに片手を上げる。
がっしりと少女の顔面を掴むと、そのままギリギリと力を入れた。
「きめぇんだよ、てめえ!何がさっくんだ。何が腰とリだ。そして何だその『リリィ』なんつーふざけた名前は!!」
「いた、いた、いたいってばぁ~!!さっくんの馬鹿ぁ~っ!!」
さっくんの単語にさらに手に力を込める。
「……そのふざけた呼び方と、しゃべり方をやめろ。気持ち悪い」
「わーった!わーったよ!くっそ、てめえ痛ぇじゃねーかよ!!」
舌打ちしながら佐久弥の手を振り払った少女が睨みつける。
この少女こそ、何度もVRゲームに佐久弥を誘い続けた友人の拓也だ。
「いいじゃんかよ、どうせなら可愛い子見ながらプレイしてーじゃねーか。……自分で自分の姿見られないのが誤算だったがな」
「相変わらず考えなしだな、お前は」
「こんないたいけな少女にお前は相変わらず容赦が無ぇな」
「俺の中にはお前らに対してする容赦などはじめから無い」
普段の口調になった拓也に、ようやく佐久弥の鳥肌が治まる。
「俺にもか?サクヤ」
楽しげに口元を歪めて立つ男にも、佐久弥は嫌そうな目を向ける。
「そんで?お前は何でそんな姿なんだ」
妹の咲を見遣ると、何だそんなこと、とばかりに肩をすくめる。
「戦闘ありだろ?だったらリーチ長い方が有利だと思って。そんだけ」
ゲーム性ありきの言葉に、妹の性格を知り尽くしている佐久弥は何も言えない。
「口調は」
「兄貴は、こんな格好した男が女言葉でしゃべるの聞きたいのか?」
「……もうお前はその口調のままで良い。想像したら耐えられなかった」
「だろ?」
自分は間違ってない。と堂々とする妹の行く末が少し不安になったが、もう嫁いでいるのだから問題ないだろうと開き直る。
「そんで、お前は……『輝夜』か……何て微妙な」
微妙に厨二病っぽい名前に引いていると、兄貴が佐久弥だからなんとなくねーとからから笑っている。
「というか、性別ってあったか?」
「……また兄貴はキャラクター設定適当にしたんだな。まあ、その姿みたら何もしてないのわかるけどな」
苦笑しながら、咲は一番下に詳細設定があり、大幅な変更が出来るんだと言うが、興味が無かったので覚えてない。
「それで?珍しいVR初体験のサクヤはこの町までどうしてたんだ?」
その青いの何だとか、腰の剣ってどこにあるんだ?とか矢継ぎ早に問い掛けられる。
……相変わらず、初プレイの感想とか何より、そういった情報を求める咲の姿に、適当な場所に座り込み、話し出したのだが……話せば話すほど解放してもらえそうになかった。
「は?門番?」
情報源を語ると、二人は一瞬無言になった。
「ちゃんと話しかけたんだけど……?」
「俺も俺も、ちゃんと話しかけたぞー」
どっかりと胡坐をかいた拓也が頬杖をついて口を尖らせる。
「モンスターの名前と、行動範囲くらいは教えてもらったけど、採取方法なんて知らないよ俺は」
首を振る咲に、拓也もうんうんと頷く。
「それだけだったから俺もそれ以上話しかけてない」
なー。と二人揃って首を傾けている。
「……んー。何が違うんだろうな。まあとりあえず通るたびに雑談してたら、ぽろりと教えてくれたんだが」
「「それだ!!」」
何だ?NPCにも好感度設定とかあんの?仲良くなんねーと情報くれないとか?それとも会話回数?会話の内容関係あんの?
意見を交わしだした二人の話が一段落つくまでぼんやりとスライムをぐねぐねと捏ね回しながら待つ。
「んでー?サクヤ、その青いのは何なんだよ」
「こいつはスラリーって種族だ。門番も言ってなかったか?」
ひょい、と前か後ろかはわからないが持ち上げて拓也へと突き出す。
「あー名前だけは聞いたんだけどよぉ、見た事ねーんだ」
「初日に人の多さに嫌気が差して川の近くで昼寝してたら、周りに大量に出てきた」
(あ……あいつらの所に顔出すの忘れてた)
語りながら佐久弥の背中を冷や汗が流れる。どうしよう、次にあの場所に行くのが怖い。
「なんだそりゃ?……これも要検証か~。つーか、何でサクヤそれ掲示板にあげねーの?」
「は?掲示板?何だそりゃ」
「公式HPにある攻略質問掲示板」
当たり前のように告げられても知らないし、知っていたとしても、攻略など見る気は無い。
「ゲームなんて、自力で調べるのが当たり前だろ?」
「あんだけうじゃうじゃNPCいて、全部回れるわけねーだろが!挨拶だけしかしない奴はいいとして、旦那の愚痴を延々聞かせてくる主婦やら、酔って管を巻くようなのとか、仕事の愚痴ばっか言う奴とか、流行の髪型とかの話ばっかする奴とか!」
やってらんねーよ!と叫ぶ拓也に佐久弥は首を傾げる。
「いや、面白いぞ。同じ言葉を延々言われるのを承知で、ストーリーが進むたびに全員聞きなおす事を考えたらはるかに面白い」
「……てめーのマゾいプレイ方法で考えんじゃねええええええ!!」
うがーっとせっかく整えていた髪を掻き毟る拓也に、そういえば、と佐久弥は続ける。
「採取情報なら、他にもいたぞ。二人ほど」
「……誰だ」
どこか据わった目付きで問う拓也に、ああ、これこれ。と思う。
そもそも普段の拓也はそれこそ今してるような髪色をしていて妙にやさぐれているのだ。たまに二人で遊びに行ったら佐久弥が脅されているんじゃないかと職務質問を受けることがあるほどだ。
「町の外れにいるだろ?掃除してる女の子、あれ。あとは……酒場の二階の……いっちばん奥の部屋にいる男」
「……あの、いつも掃除しながら熱唱してて声かけ辛いあの娘と、酒場の奥でいっつも飲んだくれて泥酔してるおっさんか」
拓也の声が低い。そりゃもー低い。
「わかるわけねぇだろうがぁあああ!!運営ぃいいいい!!面かせ、面ぁ!!」
暴れる拓也を落ち着かせた後も、情報交換会はまだまだ続けられた――
驚き覚めやらぬままの男が、佐久弥を見下ろす。
「あれだけ誘ったのに、一回もVRゲームしようとしなかったのにぃ~なーんで教えてくれなかったのぉ~?」
ぷん、とむくれた少女が口を尖らせながら告げる。
「…………」
佐久弥にはもう、この二人が誰かはわかっていた。
どれほど姿を変えようと、それぞれにその面影は残っていたからだ。
――友人と妹。
互いにVRゲームの面白さを佐久弥に何度も語っては一緒にプレイしようと誘いをかけてきていたのを、佐久弥は同じ数だけ断っていた。
それなのにいまだに諦めず誘いをかけていた二人だったからこそ、佐久弥がこの場にいるのに心底驚いているようだ。
「サクヤはソロで動いてるのか?……というか、その頭の上のは何だ」
スラリーを見た事が無いのか、不思議そうに佐久弥の頭の上のスライムをつつく男が、不思議そうに首を傾げてはまたつつく。
スライムが嫌がってフードの中にコウモリと一緒に潜り込むと残念そうに手をひっこめている。
こちらは、見慣れた布の服の上に防御力を重視していそうな鎧をつけ、身の丈もありそうなほどの大剣を背にしていて貫禄は十分だ。
佐久弥に似た漆黒の髪と、黒い瞳。浅黒い肌は鋭い視線と相まって少々強面だ。
「さっくんってば水臭いよぉ~はじめるなら、言ってくれれば最初っから、手とり足とり腰とり!説明してあげたのにぃ~☆」
きゃはっ、と笑って告げる少女は、自分で作ったのか、誰かに作ってもらったのかは知らないが、最初の布の服とは全然違う可愛らしいドレスを着ていた。
ひらひらとした裾には多くのレースが施され、身動きするたびにふわりと翻る。
ふわふわと波打つ金の髪は柔らかに幼い頬を縁取っていて、今は尖っている桜色の唇もまた柔らかそうだった。
「…………」
二人が話す間ひたすら黙りこくっていた佐久弥が、おもむろに片手を上げる。
がっしりと少女の顔面を掴むと、そのままギリギリと力を入れた。
「きめぇんだよ、てめえ!何がさっくんだ。何が腰とリだ。そして何だその『リリィ』なんつーふざけた名前は!!」
「いた、いた、いたいってばぁ~!!さっくんの馬鹿ぁ~っ!!」
さっくんの単語にさらに手に力を込める。
「……そのふざけた呼び方と、しゃべり方をやめろ。気持ち悪い」
「わーった!わーったよ!くっそ、てめえ痛ぇじゃねーかよ!!」
舌打ちしながら佐久弥の手を振り払った少女が睨みつける。
この少女こそ、何度もVRゲームに佐久弥を誘い続けた友人の拓也だ。
「いいじゃんかよ、どうせなら可愛い子見ながらプレイしてーじゃねーか。……自分で自分の姿見られないのが誤算だったがな」
「相変わらず考えなしだな、お前は」
「こんないたいけな少女にお前は相変わらず容赦が無ぇな」
「俺の中にはお前らに対してする容赦などはじめから無い」
普段の口調になった拓也に、ようやく佐久弥の鳥肌が治まる。
「俺にもか?サクヤ」
楽しげに口元を歪めて立つ男にも、佐久弥は嫌そうな目を向ける。
「そんで?お前は何でそんな姿なんだ」
妹の咲を見遣ると、何だそんなこと、とばかりに肩をすくめる。
「戦闘ありだろ?だったらリーチ長い方が有利だと思って。そんだけ」
ゲーム性ありきの言葉に、妹の性格を知り尽くしている佐久弥は何も言えない。
「口調は」
「兄貴は、こんな格好した男が女言葉でしゃべるの聞きたいのか?」
「……もうお前はその口調のままで良い。想像したら耐えられなかった」
「だろ?」
自分は間違ってない。と堂々とする妹の行く末が少し不安になったが、もう嫁いでいるのだから問題ないだろうと開き直る。
「そんで、お前は……『輝夜』か……何て微妙な」
微妙に厨二病っぽい名前に引いていると、兄貴が佐久弥だからなんとなくねーとからから笑っている。
「というか、性別ってあったか?」
「……また兄貴はキャラクター設定適当にしたんだな。まあ、その姿みたら何もしてないのわかるけどな」
苦笑しながら、咲は一番下に詳細設定があり、大幅な変更が出来るんだと言うが、興味が無かったので覚えてない。
「それで?珍しいVR初体験のサクヤはこの町までどうしてたんだ?」
その青いの何だとか、腰の剣ってどこにあるんだ?とか矢継ぎ早に問い掛けられる。
……相変わらず、初プレイの感想とか何より、そういった情報を求める咲の姿に、適当な場所に座り込み、話し出したのだが……話せば話すほど解放してもらえそうになかった。
「は?門番?」
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「ちゃんと話しかけたんだけど……?」
「俺も俺も、ちゃんと話しかけたぞー」
どっかりと胡坐をかいた拓也が頬杖をついて口を尖らせる。
「モンスターの名前と、行動範囲くらいは教えてもらったけど、採取方法なんて知らないよ俺は」
首を振る咲に、拓也もうんうんと頷く。
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なー。と二人揃って首を傾けている。
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「初日に人の多さに嫌気が差して川の近くで昼寝してたら、周りに大量に出てきた」
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語りながら佐久弥の背中を冷や汗が流れる。どうしよう、次にあの場所に行くのが怖い。
「なんだそりゃ?……これも要検証か~。つーか、何でサクヤそれ掲示板にあげねーの?」
「は?掲示板?何だそりゃ」
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当たり前のように告げられても知らないし、知っていたとしても、攻略など見る気は無い。
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やってらんねーよ!と叫ぶ拓也に佐久弥は首を傾げる。
「いや、面白いぞ。同じ言葉を延々言われるのを承知で、ストーリーが進むたびに全員聞きなおす事を考えたらはるかに面白い」
「……てめーのマゾいプレイ方法で考えんじゃねええええええ!!」
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「採取情報なら、他にもいたぞ。二人ほど」
「……誰だ」
どこか据わった目付きで問う拓也に、ああ、これこれ。と思う。
そもそも普段の拓也はそれこそ今してるような髪色をしていて妙にやさぐれているのだ。たまに二人で遊びに行ったら佐久弥が脅されているんじゃないかと職務質問を受けることがあるほどだ。
「町の外れにいるだろ?掃除してる女の子、あれ。あとは……酒場の二階の……いっちばん奥の部屋にいる男」
「……あの、いつも掃除しながら熱唱してて声かけ辛いあの娘と、酒場の奥でいっつも飲んだくれて泥酔してるおっさんか」
拓也の声が低い。そりゃもー低い。
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