先生、運営が仕事してくれません!

紫堂 涼

文字の大きさ
15 / 29
獣人の町

第十話

しおりを挟む

 森を抜けると草原が広がる。
 だが、はじまりの町の周辺とはその光景を一変させていた。
 草が一面を覆うだけではなく、大小の木々がまばらに生え、所々はその地面を剥き出しにしているのだ。
 甘く瑞々みずみずしかった空気は幾分いくぶん乾燥したものに変わり、頬を撫でる風は時折強く吹く。

(変わるもんだな……)
 場所を変えれば、雰囲気も変わる。
 細かな変化に、佐久弥は楽しそうに目を細めた。

 まずは情報収集、とばかりに佐久弥はまっすぐに町を目指す。
 こちらの町は壁では無く柵で囲まれていた。そして、出入りをする門には、屈強くっきょうそうな人物が鎧を着込み立っている。
 全身を覆うような甲冑ではなく、身軽さを重視した作りになっている。皮製で動きを妨げないように重要な部分だけを覆う鎧が、確かに彼には似合いだろう。

(獣人の町といったところかな?)
 佐久弥が首を巡らせると、門番だけでは無く、出入りしている人々もまた、特徴のある姿をしているのだから。
(他の町では……といってたのはこういう事か)
 はじまりの町の老婆は、己の町の住人は町から出る事は無いと言っていたが、他の町はともかく、と付け加えていた。
 NPCの表示がされているものたちが、門をくぐっては何処いずこかへ向けて旅立っている。……これで、あの不気味な感覚は味合わなくてすむのかもしれない。

 少し安心した佐久弥が足を進めると、何故だか門の入り口で何人ものプレイヤーが頭を抱えて座り込んでいた。
「……?」
 何かあったのかと周りを見ても、何も無い。
 不思議に思った佐久弥が聞き耳を立ててみると……意味がわからない。

「俺の、俺の夢を返せ……」
「ケモミミの、ケモミミへの浪漫をどうしてくれる!!」
「獣人ってのは、こう……こう……可愛い子に、耳と、尻尾だろぉおおおお!!」

(うん、意味がわからない)
 獣人と言うならば、今こうして目の前にいる門番のような姿だろう。
「こんにちは~今お忙しいですか?」
「なんだ、兄ちゃん。忙しいってほどじゃねえが……何か用か?」
 がっしりとした骨格をしていながらも、やや細身の筋肉質な体型。佐久弥が見上げるほどの身長、低めの腹に響く声、太くふさふさの尻尾、鋭い目、――日差しにきらめく牙、全身を覆う毛皮、首の上にどっかりと乗った、狼そのものの顔。
(見事な獣人じゃないか)
 いったいどんな夢を見ていたのか、佐久弥には想像も付かない。だがその横に立っている女性プレイヤー達からは妙な熱気を感じる。

「もふもふ……」
「全身もふもふ……」
「やだ格好良い。ぎゅーってされたい」
「私はあえて、ぎゅーってしたい」

 ――楽しそうで何よりだ。
 この女性陣の邪魔はしてはいけないと悟った佐久弥は、いつものように狼の獣人である門番と軽い会話を交わすと、女性の視線を遮らないように注意しながら門を潜り抜ける。

 佐久弥がこの町に辿りつくのは、他の連中より大幅に遅かったようだ。
 久々に見る大量のプレイヤーの姿に、わずかに眉をしかめる。このところあまり他の連中を見かけていなかったので、初日を彷彿ほうふつとするこの光景には溜め息をつきたくなる。

(……こういうのがいるから、嫌なんだ)

「な~んか、良い武器持ってんね、あんた」
「それ、前の町じゃ見た事ないけど、何?レア?」
 門を抜けて大通りを進んでいた佐久弥の前に、二人の男が立ちふさがる。
 プレイヤーの表示があるその二人に、佐久弥はただ胡乱うろんな目を向ける。
「なーに、つまんねぇ顔してんだてめぇ……その目付きムカつくんだよ」
「……この顔は生まれつきだ」
 やたらとつまらなさそうな顔をしていると昔から言われる傾向にある。
 佐久弥当人としては、十分喜怒哀楽を映し出しているように見えるのだが、他人に言わせると何をしていてもつまらなそうに見えるらしい。
(妹にも良く言われてたんだよなぁ……)
 もっと楽しそうな顔しようよ!とか言われても、無理なものは無理なわけで。
 まあ、顔はともかくちゃんと楽しんでいるのは伝わるようなので自分としては問題はないのだ。

「気に入らねぇ……痛い目にあいたくなきゃ、その豪華な剣、置いてきな」
(いつの間にか話が進んでいる)
 過去を思い返しているうちに、どうやら目の前の男二人は何がしかの結論を出したらしい。剣を欲しがっているようだ。
(……いいんじゃないか?)
 自分が持っていても、戦いに使うわけでもないし、何といってもこれまでにやったことといえば、竜の爪切りだ。
 こいつも剣として生まれたのなら、剣として使ってくれる者のところへ行った方が幸せだろう。
 納得した佐久弥は、素直に腰の剣に手をかけ、男達に向けて差し出す。

「お、何だ何だ。……物分りが良いじゃね……」
「賢い奴だな、素直でい……」

 ガタガタガタガタ。
 差し出す佐久弥の手の中で、いやいやと左右に大きく揺れる剣がそこにはあった。
「どうぞ」
 気圧けおされたまま、無意識に手を伸ばした方の男に剣を握らせると、さらに大きく震えながら……泣き出した。
 ぼとぼとと涙を零しながら、震える剣。
 その剣を手にした男の手が涙でぐっしょりと濡れる。地面にはもう水溜りができそうなほどだ。
 ひくっひくっと痙攣けいれんしはじめた剣に、男たちは一瞬呆然として、その後気を取り直すと佐久弥を睨みつける。

「お、お前!こいつが可哀想じゃねえか!」
「こんなに離れたくないって泣いてる奴を、何で簡単に手放すんだよ!」
「えー……」
 何て理不尽。くれっていったからやったのに、なんで怒られなきゃいけない。
「ほ、ほらほら。ちゃんと返してやっからな。泣き止め」
「大丈夫だ、大丈夫だから、落ち着きな」
 目の前では、ひたすら剣をあやす大の男が二人。
「……ほら、でも俺は剣使わないし、こいつらの方が大事にしてくれんじゃないのか?」
 その光景に、佐久弥がつい思ったことを告げると、ギン!と音がしそうなほど鋭い目付きで睨みつけられる。
「くっ……なんてひでぇ男だ!」
「可哀想になぁ……こんな男にだまされて……」
「俺たちで、俺たちでお前の変わりになるなら、なってらあ!」
「でもこの子は、お前が良いんだろうが!そんくらいわかってやれよ!」
 ――さらに糾弾きゅうだんされた。納得がいかない。そしていつ俺がこの剣を騙したのか教えて欲しい。
「ほら、ちゃんと大事にしてやれよ」
「可愛がってやれ。もう手放すなよ」
 温かい目でそんな事を言われ、佐久弥の手に再び剣が戻ってくる。
 その途端、ふわふわと花を飛ばす姿に、連中の目尻が下がる。
「よかったなあ……幸せになれよ」
「うっ……ま、またな」
(……またって次の機会なんてあるのか?)
 勝手に進んで行く物語に、佐久弥はただ沈黙を守る。
 少し目を潤ませて去った二人組みに、佐久弥は何とも言えない気分を味わいながら、諦めて剣を元の位置に戻した。


「何の騒ぎだ?」
 低めの落ち着いた声が近付いてくる。
「何ぃ~?何かあったのぉ?」
 高めのゆるい声も続く。
 何気なく佐久弥が振り返ると、それを見た二人が目を見開き、叫ぶ。

「サクヤぁ!?」
「さっくん!?」

 そこには、佐久弥より背が高く、巨大な剣を背中に背負った黒髪の男と、小柄なレースいっぱいのドレスを着た金髪の少女が、いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...