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紫堂 涼

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獣人の町

第十九話

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 ゆらーり、ゆらーりとまだ青いトウモロコシのひげを生やした拓也が歩み寄ってくる。
 あんな目にあった挙句のこの状態に、佐久弥もまた乾いた笑みを浮かべるしかない。
「だ、大丈夫か……?」
 可愛らしい外見をしていようとも、この姿だと笑っていいのか怖がっていいのかわからない。ただ確かなのは……哀れだ、という事だ。
 皆が腫れ物に触るように拓也を取り囲んでいると、しゅうしゅうと音を立ててひげが茶色に変色してゆき……ぱらぱらと地面に落ちて消滅する。
「消えた!消えたぞリリィ!」
 励ますようにその肩を叩く佐久弥は、申し訳なさ一杯だ。
 自分が誘った結果がこれでは本当に今度何か奢らねばならないだろう。

「……武器」
 ぽつり、と拓也が呟く。
「武器ロストしたぁああああっっ!!」
 え?そこ?
 かなり大きな問題ではあるが、ひげは良かったのだろうか。微妙な顔で拓也を見下ろす面々は何も言えない。
「あ~今回のわびに、こないだ手に入れた鳥の羽使うか?」
 武器の材料になると狼の門番が言っていた素材をアイテム欄から取り出す。
「いいのかっ!?」
 目をキラキラさせて振り向く拓也はすでに立ち直っている。この単純さが時折羨ましい。
「ああ、全部提供しよう。全部で四羽分ある」
「おおおお~っ新素材!!あの魚見たせいで釣りに手ぇ出してねぇから確保してなかったんだよな~ありがとなサクヤっ!!」
 ほくほくと頬を緩める拓也に、佐久弥がはっと気付く。
「……お前。素出てんぞ」
「…………あ」
 たらりと冷や汗を流しながら拓也が周囲を見渡す。
「え?何を今更言ってる訳?」
 きょとんと弥生が告げると、残りの二人も深く頷く。
「テンションが上がるとたいていこんなですよ?リリィは」
 ケイがさらに叩き落す。
「ほんと今更だな」
 シュウもざっくりとそれに続く。
「なーんだ、バレテタのか。だったら私もかな~」
 咲が苦笑しながら続ける。
「「「え?」」」
 ばっ、と三人して咲を振り返り固まる。
「……お前、墓穴掘ったな」
 佐久弥の一言に、咲もまた引き攣った顔で頷いた。
「そのようだね……」
「よっし、なら鍛冶場へレッツゴー☆」
 何も無かった事にしたらしい拓也がきゃぴっとした声で行き先を指差す。
「そうだな」
 咲もまた何事も無かったかのように歩き出した拓也の後に続く。
「……さ、行くか」
 固まったままの三人を残し佐久弥も後を追う。
「「「……え?」」」
 その見事なスルーっぷりに、三人は取り残され……気付けば姿が無かった彼等の後を追いかける羽目となった。


「これが噂の素材~♪」
 ほくほくと両手に鳥の抜け殻を抱えている拓也と、それを面白そうにつつく咲。
「まるっと回収出来るんだな。不思議だ」
「……そうですねぇ」
 普通にしている二人の姿に、遅れてやってきた三人も慣れたのか、ケイを筆頭に素材をつつきまわしている。
「問題は使い方だよねぇ、これがどうやって武器になるのかリリィわかんな~い」
(……バレていてなおこのキャラを維持するお前をいっそ尊敬する)
 佐久弥は何とも言えない表情をしたまま試行錯誤する連中を眺める。
「聞きゃいいんじゃねえか?」
 確かこの場所には親方が居たはずだと佐久弥は視線を巡らせる。
「ここの親方、まずは打って打って打ちまくるべし!ってタイプなんだよ」
 苦笑する咲に、佐久弥はさらに続ける。
「未知の素材だったら違うんじゃないか?」
 そうかな?そうかも。と頷き合って、親方に声をかける。
「すいません親方!!この鳥なんですが……」
「ああん?普通に打ちまくれば良いもんが出来らぁ」
 猪姿の親方にあっさりと予想通りの言葉を告げられてしまうが、なお食い下がってみる。
「この素材知らないんですよ。申し訳ないんですが教えて頂けたらと……」
 すいません勉強不足で、と続けると、いつぞやの釣りNPCのように呆れたように見てくる。
「まったく、鳥の鍛え方も知らねぇとは……若いもんはったくよぉ」
 ぶちぶちと言いながらも、どこか嬉しそうにしているのが一目でわかる。
鋳造ちゅうぞうにしろ、鍛造たんぞうにしろ、いったんこいつを金属にしてやらんとならん」
 若者に教える事が心底嬉しいらしく、声が少し上擦うわずっている。
「ん?四羽分か。なら……おお~い!!一人こっちに来い!!」
 耳にびりびりとくる大音量で親方が叫ぶ。
「何っすか?親方」
 ぴこぴこと長い耳を揺らしながら小柄な兎獣人が跳ねてくる。
「鳥だ。投げ込め」
「うっす!!」
 親方の指示に元気の良い返事をすると、四つの塊全てを手に持つ。
 器用だな、と佐久弥が思っていると……親方が赤々と燃えている炉の扉を開く。
「行きまっす!」
「おうよ!!」
 掛け声と共に四羽分全てが無造作に放り込まれる。燃えちゃう!!と拓也の叫び声が聞こえるが、それをかき消すように親方が大きな音を立てて素早く扉を閉じ、さらにかんぬきをかける。
「こうしてきっちり閉めておかねぇと……奴ら、逃げ出すから注意しろよ」
 ばたん、ばたんと炉の中で何かがぶつかる音が外まで聞こえる。
「……鳥の羽、ですか?」
「当たり前だろう?他に何がある」
「ほんと、勉強になります……」
 さらにガタガタと炉が揺れるほどぶつかっている様子に、壊れるんじゃないかと不安になってくる。
「壊れませんか?」
 さらに音が大きくなるのに耐え切れず、佐久弥は問いかけるが親方は何でもないような顔だ。
「あん?鳥ぐらいでガタガタ言ってんじゃねぇや。そんなん言ってたらあっちの炉を使うような馬はどうなるってんだ」
 巨大な炉を指し示し、親方は常識のように告げる。
「う、ま……?」
 ありえない素材を持ち出され、つい耳を疑う。
「馬。ここいらじゃ手に入らねぇが、商人が取り扱ってらぁ。興味があるなら見せてもらえ」
 そう言いながら親方は炉の内部の音に注意している。
「そろそろ頃合だな」
 親方が閂を開け炉の扉を開くと……炎の中で輝く小さな塊があった。
「上々だな」
 満足そうにそれを見詰めて一つ頷くと、親方は慎重にその塊を取り出す。
「これが冷えたら、あとはお前らが今まで扱っていたような鉄とかと一緒だ。打って打って打ちまくれ!」
 そこには熱を持ち赤く光る見事なインゴットが四本あった。……やたらと大きいが。
(どうしてこの形になる)
 炉の中でぶつかって変形したにしても、綺麗すぎる形にまた妙な変化が起きたのだろうと推測する。
 冷えると次第に色を変化させて行き、最後には銀色の塊となる。……普通表面が少し違う色になるものじゃないだろうか。だが出てきた塊はすでに完成品だ。

 佐久弥が色々納得いかず唸っているうちに、拓也がいそいそとその塊を手にしてその場を去っていった。
「ん?」
 暑いのか、いつも以上に垂れてきたスライムに気付き、さらに静かなフードの中も気になった佐久弥はいったん外へと出る。
「あ~気付いてやれず悪かった」
 外へ出ると地面にだらーんと水溜りのように広がったスライムに佐久弥は気まずそうに呟く。
 キューちゃんも、ようやくフードの中でごそごそする感触がしはじめたので大丈夫だろう。
 花子は……問題外だな。うん。ある意味故郷だろう鍛冶場なんて。

「さっくーん、できたよーぉ!」
 そのまま佐久弥も建物の間を通り抜ける風の涼しさにのんびりしていると、拓也に呼ばれる。
「お~お疲れさん」
 自慢するように目の前に出された短剣には綺麗な木目模様があった。
「何かこれダマスカスっぽいよな~前の奴より遥かに強度たけーし」
 満足そうにかざしてみたり、しまってみたりする拓也に喜んでもらえてよかったと安堵する。
 恐怖体験させたあげくに武器ロストなど笑えない。……この様子だと奢りはいいかな?と己の財布の中身に思いを馳せながら佐久弥はそんな事を思う。

「糸の次は鳥ですねっ!!」
 握り拳のケイはやる気だ。
「虫見なくてすむ!!」
 弥生はすごく嬉しそうだ。
「……あの魚と人魚ですか」
 シュウはすでに遠い目をしているが、すぐに元に戻る。
「「「あの農園よりマシ」」」
 バーコードだろうと、おはぐろだろうと、鳥がぬるっと抜けようと足の生えた魚がいようと、野菜と違って無害だと、拓也も含め四人で盛り上がっている。
 咲も咲で新しい武器の予感にさっきからうずうずと大剣の柄を何度も掴んでいる。
「危ないからこの場で抜くなよ輝夜」
「あ、悪い兄貴。無意識だった」
 しっかりと柄を掴み引き抜こうとしかけていた咲に注意を飛ばすと、無意識らしい。……危ない奴だ我が妹ながら。
「いよっしゃあ!次は釣り三昧だ!!」
 おー!!と拳を振り上げる面々に、数日前を思い……皆たくましくなったなぁと佐久弥は一人ほのぼのと見守る。


 そうしてしまったのが自分が連行した農業体験だというのを棚に上げたまま。
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