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祝福の光の中で 侍女視点
しおりを挟むわたくしがこのクラウゼン公爵家に仕えるようになって、早十五年になります。
初めて奥様――いえ、リリアーヌ様にお目にかかったのは、今でも忘れられません。
あの方は、静かに佇んでいるだけで、周囲の空気が洗練されていくような方でした。それでいて、決して気取らず、わたくしのような下働きの者にも、丁寧な言葉で接してくださるのです。
最初のうちは、「こんなに完璧な人が本当にいるのかしら」と驚いたものです。
ですが、今でははっきりと言えます。
――リリアーヌ様は、優しさと強さを兼ね備えた、本物のご令嬢であり、本物の奥様です。
そして、ご結婚から二年目の春。
お二人に、第一子となる男の子が誕生なさいました。
クラウゼン家の後継となる、小さな命の誕生です。
出産の報が屋敷中に広まったとき、まるで光が差し込んだように、皆が笑顔になりました。
使用人たちも、兵士たちも、庭師や料理人までが口々に「おめでとうございます」と言い合い、厨房には祝い菓子が山のように積まれました。
それほどまでに、皆がこの瞬間を待ち望んでいたのです。
ユリウス様がその赤子をそっと腕に抱く姿は、いつもとは違う柔らかい眼差しに包まれていて――思わず、わたくしも目頭が熱くなってしまいました。
「こんなにも、小さいのだな」と、ユリウス様は何度もそう呟いていらっしゃいました。
そしてリリアーヌ様は、寝台の上で静かに微笑みながら、その様子を見守っておられました。
「あなたに、似ているわ」と。
ああ、このお二人のもとなら、この子はきっと、強く優しく、誰よりも愛されて育つのでしょう。
殿下からの祝電も届きました。
――かつてリリアーヌ様の婚約者だったジークフリート殿下です。
王太子殿下としての礼儀であると、文面は淡々としておりましたが、送り主の複雑な想いは、読み取れないでもありませんでした。
それでも、もう遅いのです。
リリアーヌ様は、ユリウス様の隣で、今もこれからも、幸せに生きていかれるのですから。
あの方はすべてを失ったように見えて、本当に大切なものだけを選び取ったのです。
わたくしは、奥様と坊ちゃまの姿を見るたびに、思います。
幸せというものは、地位や名声ではなく、「愛されている」と確信できる場所にあるのだと。
今日も、公爵夫妻は並んで庭を散歩されています。
春の花に囲まれて、赤子の笑い声が風に乗って響いています。
どうかこの幸せが、永遠に続きますように――。
*終*
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