7 / 8
セレナの後悔
しおりを挟む「勝った」と思っていた。
王太子殿下の心を掴み、彼の隣に立つ未来を手に入れたあの日、私は誰よりも誇らしい気持ちで満ちていた。
子爵家の令嬢として生まれた私が、王妃になれるかもしれない立場に上り詰めたのだ。世間がリリアーヌ・フォン・エルディアを褒めそやすたびに、私は内心で嘲笑っていた。
ふふん、勝者は私よ、と。
でも――違った。
舞踏会の夜、彼女が現れた瞬間、すべてが崩れた。
磨き抜かれたドレスに、上品な微笑み。自信に満ちた立ち居振る舞い。そして、何よりも隣に立つ男性――ユリウス・フォン・クラウゼン公爵家の後継者の存在が、その輝きに拍車をかけていた。
誰もが、息を呑んだ。
誰もが、リリアーヌを称賛した。
彼女は捨てられた女なんかじゃない。すべてを乗り越えて、さらに高みに登った存在だった。
私の隣に立つジークフリート殿下は……苦い表情を浮かべていた。
まるで、後悔しているように。まるで、まだ彼女に未練があるように。
私はそれに気づかぬふりをして、ぎゅっと殿下の腕を掴んだ。
だけど――彼の視線が、彼女に向いていることからは、逃れられなかった。
数日後、私たちは王家の人間としての務めを果たすべく、外交や儀礼の場に出席し続けた。でも、どの場でも聞こえてくるのは、リリアーヌとユリウスの名ばかり。
「まさかリリアーヌ嬢があの公爵家に迎えられるとは」
「本当にお似合いですわね。公爵妃として完璧なお方よ」
「お可哀想に、王太子殿下は見る目がなかったのね」
その言葉の矛先が、私とジークフリート殿下に向いているのだと、痛いほどわかっていた。
どうして? 私は殿下に尽くしてきた。
可愛げも見せたし、励ましもした。どんな時も、リリアーヌのように凛としてはいられなかったけれど、懸命に努力してきたつもりだった。
でも、誰も褒めてくれない。
誰も、私を「選ばれて当然の王妃候補」とは言ってくれない。
代わりに囁かれるのは――「あの女が殿下をたぶらかした」という、皮肉交じりの同情だけ。
悔しい。悔しくて、たまらない。
なぜ、彼女を選ばなかったの?
どうして、私の隣には、何もかもを失ったような目をした殿下しかいないの?
私は欲しかったはずの「玉の輿」を手に入れたはずだった。
けれど今、玉の輿の中で、孤独と劣等感に押しつぶされそうになっている。
……私、何のために彼を奪ったのかしら。
いつか、彼女のように誇らしく、誰からも祝福される立場に立てると思っていた。
でも、私には、あの光は届かなかった。
――私が壊したのは、彼女の未来じゃない。自分の未来だったのだ。
*終*
54
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ
ゆっこ
恋愛
その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。
「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」
声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。
いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。
けれど――。
(……ふふ。そう来ましたのね)
私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。
大広間の視線が一斉に私へと向けられる。
王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。
婚約破棄は先手を取ってあげますわ
浜柔
恋愛
パーティ会場に愛人を連れて来るなんて、婚約者のわたくしは婚約破棄するしかありませんわ。
※6話で完結として、その後はエクストラストーリーとなります。
更新は飛び飛びになります。
始まりはよくある婚約破棄のように
喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」
学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。
ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。
第一章「婚約者編」
第二章「お見合い編(過去)」
第三章「結婚編」
第四章「出産・育児編」
第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる