捨てられ令嬢は笑う〜婚約破棄のその先で、本物の幸せを手に入れました〜

ノッポ

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セレナの後悔

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 「勝った」と思っていた。

 王太子殿下の心を掴み、彼の隣に立つ未来を手に入れたあの日、私は誰よりも誇らしい気持ちで満ちていた。

 子爵家の令嬢として生まれた私が、王妃になれるかもしれない立場に上り詰めたのだ。世間がリリアーヌ・フォン・エルディアを褒めそやすたびに、私は内心で嘲笑っていた。

 ふふん、勝者は私よ、と。

 

 でも――違った。

 

 舞踏会の夜、彼女が現れた瞬間、すべてが崩れた。

 磨き抜かれたドレスに、上品な微笑み。自信に満ちた立ち居振る舞い。そして、何よりも隣に立つ男性――ユリウス・フォン・クラウゼン公爵家の後継者の存在が、その輝きに拍車をかけていた。

 誰もが、息を呑んだ。

 誰もが、リリアーヌを称賛した。

 彼女は捨てられた女なんかじゃない。すべてを乗り越えて、さらに高みに登った存在だった。

 

 私の隣に立つジークフリート殿下は……苦い表情を浮かべていた。

 まるで、後悔しているように。まるで、まだ彼女に未練があるように。

 私はそれに気づかぬふりをして、ぎゅっと殿下の腕を掴んだ。

 だけど――彼の視線が、彼女に向いていることからは、逃れられなかった。

 

 数日後、私たちは王家の人間としての務めを果たすべく、外交や儀礼の場に出席し続けた。でも、どの場でも聞こえてくるのは、リリアーヌとユリウスの名ばかり。

 「まさかリリアーヌ嬢があの公爵家に迎えられるとは」

 「本当にお似合いですわね。公爵妃として完璧なお方よ」

 「お可哀想に、王太子殿下は見る目がなかったのね」

 

 その言葉の矛先が、私とジークフリート殿下に向いているのだと、痛いほどわかっていた。

 どうして? 私は殿下に尽くしてきた。

 可愛げも見せたし、励ましもした。どんな時も、リリアーヌのように凛としてはいられなかったけれど、懸命に努力してきたつもりだった。

 

 でも、誰も褒めてくれない。

 誰も、私を「選ばれて当然の王妃候補」とは言ってくれない。

 代わりに囁かれるのは――「あの女が殿下をたぶらかした」という、皮肉交じりの同情だけ。

 

 悔しい。悔しくて、たまらない。

 なぜ、彼女を選ばなかったの?

 どうして、私の隣には、何もかもを失ったような目をした殿下しかいないの?

 

 私は欲しかったはずの「玉の輿」を手に入れたはずだった。

 けれど今、玉の輿の中で、孤独と劣等感に押しつぶされそうになっている。

 

 ……私、何のために彼を奪ったのかしら。

 

 いつか、彼女のように誇らしく、誰からも祝福される立場に立てると思っていた。

 でも、私には、あの光は届かなかった。

 ――私が壊したのは、彼女の未来じゃない。自分の未来だったのだ。

 

*終*

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