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本編
40.作戦ついでに
温泉から上がって部屋に戻ってきた俺たちは(当然湯上りのコーヒー牛乳なんて物はなく···)作戦会議を始めることにした。まぁ、作戦会議と言っても今後についてどうするか不知火さんに相談するだけだ。一応、不知火さんによるよく分からん術で外に声が漏れないようにはなっている。防音魔法に似てるけど、またそれとは違うらしい。
「まず、律花様はどうされるおつもりですか?」
そう言いながら風呂上がりで少しのぼせかけた俺に良く冷えた緑茶の湯呑みを差し出す。それを受け取って一口呑むと、爽やかな苦味とすっきりした甘み·····久しぶりに呑む緑茶に俺は感動しつつ話を続ける不知火さんの声に耳を傾けた。
「律花様のご意志は楼透さんを連れ戻す事と聞き存じておりましたから、出来る限りの情報は集めてございます。楼透さんが現在居るであろう場所も幾つか検討がついております」
「ホント!!?」
「はい。しかし、まだ確証はございませんので少々お時間を頂ければ確実かと」
いや、まさか不知火さんが俺の知らないとこでそんなに働いてくれてるなんて思ってもみなかった···。もしかして、明日明後日までに楼透を見つけて連れ戻すとかワンチャンいけそう?選択肢は三つ。楼透を説得し連れ戻す、説得を失敗した場合に何が何でも無理矢理連れ出す、諦める。
まぁ、諦めるは無い。楼透が俺の生死の何に関わってるのかは知らんけど、俺の人生の安寧の為には藁にもすがる、だってそれしか手が無いし。それに楼透といつまでもあやふやなままは嫌だから。
「付きましては、律花様にお願いがございます」
「ん?」
「私一人で行動しますと、目立ちますので律花様に蓮家をご案内すると言う名目で同行して頂きたいのです。又、どうかお一人での行動はお控え下さい。······蓮家は広いですから、道に迷うと、その······」
「そこは任せてくれ、俺も学んでる。そう何度もやらかさないよ。いくら厳島家の血が流れてるからって玄登さん程方向音痴じゃないと思うから。·······いや方向音痴じゃないからな?」
そう弁解する俺に困った様に笑い返す不知火さん。
これは多分信じてない。
はは······血は争えないって奴か?
行きにあった色々と言うのは俺の『方向音痴疑惑事件』。悲しいかな···転移ホールの方向や蓮家領地への方向を間違えたのも、方角を間違えて雑木林で罠に嵌ったのも、全ては俺のせい。いや言い訳させてくれ。俺は蓮家の領地に初めて来たんだ、それに美園本邸にだって来たのが久しぶりで街も大分変わってたし、記憶が曖昧なのも仕方が無いだろう?誰だって知らないとこに行ったら道くらい間違える筈だ。そうだろう?
「ホントに違うからな!?」
「信じて!!?」
どうやらこの疑惑が晴れるまでは時間がかかるらしい。
······くそ、こうなったら何が何でも汚名返上してやる!!
「······取り敢えず不知火さんが怪しまれないように俺も一緒に行動するってのは分かった。俺も一人だと心細いし、助かる。それに散歩とか行ってみたいと思ってた」
「そうですね。それなら尚更ご提案申し上げて良かったと思います······蓮家の領地はこのような田舎の辺境の地ですし、律花様は物珍しく感じられるかもしれませんがお屋敷の敷地を一歩出れば律花様にとってそこは魔境と思って下さい」
「······俺、そこまで方向音痴じゃないんだけど」
「畏まってございます。その点のみでなく、私も律花様を全力でお守りする所存でございますが、蓮家の領地には凶暴な魔物も多くいます。どうか、お一人でのご行動はお控え下さい」
いいですね?と、再度『にこやか』に言われれば俺は頷くしかない。俺、方向音痴じゃないからな·······。それに確かに俺単体だと激弱だし、魔物との実戦経験も少ないから余計心配かけると思うけど···。
あ。
「なら、散歩しながら魔物と遭遇するかもしれないんだよな?だったらさ、不知火さんにお願いがあるんだけど、俺に魔法を教えてくれない?」
「魔法·······ですか?」
「そう!」
って、事で外に出てきた訳だが。
「ちょ、なんでこんなにいんの!??」
「サイドは私が仕留めますので中央の一群をお願い致します」
「不知火さん!?」
バシュッ!!
背後から空気を切り裂くようにベアウルフ達に飛んでいく黒い物体······あれってクナイって奴!?カッコイイ!!とか言ってる暇なんてなくて···。
『グルルルゥ』
『グルルルゥ』
ヤバ······囲まれた。俺が不知火さんの放ったクナイに気を取られた隙にベアウルフ達は俺をグルリと一周するように囲んでいた。顔は熊、体は狼と言う見た目の怖さと歯を剥き出しにし俺を威嚇する姿に正直ビビる。
······でもな、安心しろ?俺はもっと怖いものを知っているはずだ。
「······魔法は苦手なんだけど!《旋風》!!」
俺を中心に生まれる風の竜巻。それが俺を囲んでいるベアウルフ達を巻き込んで、体積が大きくなっていく。風のランク2魔法《旋風》だ。
魔法にはランクがあって最大は5、その中でも俺が使えるのはランク2までで攻撃力は余り無い基礎クラスの初級魔法だ。
徐々に吸い取られる魔力量が多くなっていく感じがする。
······やっぱり駄目かっ、魔力の制御が出来ない!
風の竜巻はさらに大きく暴れ狂う。既に発動中の魔法への魔力の供給は止めているにも関わらず、俺の発動した魔法は俺の魔力を無理矢理吸って規模を大きくしている。不知火さんにはまだ俺が魔法を使ってる所を見た事がないからって普通に魔法を使うよう言われてたけど···。いつもこうなんだ、だから練習しようにも楼透が制御を助けてくれてて──。
「『明鏡止水』」
「え······」
その声と共に巨大化していた竜巻は勢力を一瞬にして落とした。何が起こったのかは分からない······。俺の魔法で宙を舞っていたベアウルフ達は何処へ行ったのか消えている。時が止まったのかと思う程静かに俺の魔法は沈静化していった。
「危ない所だったね·······リカ」
·······リカ···?
背後の声に振り向くとそこには黒髪の·······。
所謂、髪が伸び続けるって言う呪いの人形のような見た目の中性的な人がいた。漆黒のような深い黒の長髪、着ている着物も真っ黒でその人の色白さを気味の悪いくらいに引き立てている。呪いの人形に例えるのは失礼何だけど、見た目の雰囲気がピッタリなんだよな······。
あれ?そう言えば不知火さんは??
気づけば周りは霧が濃く、周囲の様子がよく見えない。だから勿論周りを見渡しても不知火さんの姿も見えない。近くに誰かいるよえな音もしないし······遠くまで来すぎた?いや、俺は全然動いてない。不知火さんだって周りでベアウルフ達と戦ってたし·······。
「······可哀想に」
「·······はい?」
「心配しなくていい、共に連れていた不知火の次男とは直に会える。でもその前に、私に暫し時を貸して。それでは余りに君が可哀想だ」
「···あの、何を言ってるのか······」
「おいで」
んんん???
ふわりと体が吸い寄せらせるように気づいたらその人の腕の中にいた。よしよし、と言いながら俺の頭をポンポン撫でる。
「ンンン!??」
助けてくれたのは感謝するが何故俺は見ず知らずの呪いの人形(仮)に抱き寄せられて、頭ポンポンされた挙句あやされないといけないんだ···?
「しかし呪いの人形とは···ククッ。リカは面白い喩えをする」
「なっ、お前も人外かっ!?」
口に出していないのに俺の思考を読むなんて人間だったら有り得ない。···いや、有り得なくも無いのか?前に父さんからそんな魔法があると聞いたことがある様な···。
「人外、と言うのは肯であり否でもある。私がリカの思考を読み取れるのはずっと近くに居た故にリカの考えている事を理解する等容易いからだ」
「···ずっと近くに居た?」
「くす、あぁ···それはもう幼き日よりすぐ傍にな」
「············背後霊みたいな?」
「近いが遠い。正確にはリカの傍で──」
プツンッ。
と、その時近くで何か···糸のようなものが切れた音がした。
「な、何?」
「···うむ。何とか解呪は終わったか···リカ、引き止めて済まなかった。時を貸してくれた事、感謝する。···うむ?」
呪いの人形(仮)は俺を離すと、何故だかジロジロと俺の体全体を見回すように目を向け唸る。···おい、まさかこいつも俺の体を狙ってないよな!?
「私は好色家故な、勿論リカもバッチリど真ん中であるが私からしたら余りに幼い。あと二百年リカが早く産まれておったら喰っておったかもしれんなぁ。まぁ、そうでなくても······ふむ。成程な、リカは良い物を持っている。それなれば私も今少し具現化出来よう」
「!?、っ!!、???」
何言ってるのかさっぱりだし、ツッコミ所が多すぎて入り込めんわ!!
「って、何して──っ!」
「少し大人しゅうしとれ」
俺が百面相している間に、黒長髪は俺の額の中心に爪の長い指先を当てる。ヒヤリと背中に嫌な汗が流れるのを感じるが、俺は言われた通りに静かにした。だって、俺の額にその指先が簡単にめり込みそうなんだ。このいつでも俺の額を突き破って息の根を止められますよーって雰囲気を放つ指先がめっちゃ怖いっ。
「うむ。承った」
は?
本当に少ししてからそう言って笑うと、俺の額に焦点を合わせていた指先を外す。俺はと言うとぶわりと嫌な汗が吹き出る感覚。別にチキンて訳じゃないと思うけど、足の震えが産まれたての小鹿だ。
「では私は用がある故、またな。リカ」
「ちょ、今何してたんだ!」
「なに心配するな。私がリカに従属したまでの事」
「そっかぁ。従属ね!ってこら待て。そんな説明で納得する訳ないだろ!俺の死を感じる程の危機的状況下でのこの胸の不整脈を治せ!!」
「それはプロポーズか?両想いとは嬉しい事だ」
「違ーーーう!!」
この世界はどいつもこいつも話の通じないバカばっかだ。ポッと頬を染めて言う呪い人形。ずっと俺の傍に居ただとか、俺を抱きしめて解呪が何だとか、突然従属したとか、意味の分からない事ばかりで説明もない。捲し立ててはぁはぁと息をする俺の背中を摩ると「また会える」そう言って消えていってしまった。
·······一体なんなんだよ。結局終始何があったのか分からないままだ。また会えるって言われても嬉しくない。この状況を誰か説明してくれ。
「律花様!!ここに居らしたのですね!」
「···不知火さん」
「魔獣の群れを撃退している内に律花様を見失ってしまいました。律花様の護衛の身でもあると言うのに、大変申し訳御座いません···!この不知火、腹を切って──」
「切腹ダメ絶対っっ!!」
切腹すると小刀を取り出した不知火さんを羽交い締めにして宥めて切腹を止めさせる。危ない、この人に小刀を持たせたら色々危ない!
「仕方ないよ。あの霧だったし」
「······霧、ですか?」
「え?」
「···え?」
二人して顔を見合わせ沈黙する。話を聞くとどうやら不知火さんの視界は明瞭で霧がかってなどいなかったらしい。
「······世にも奇妙な話、ってか」
笑えない。
「まず、律花様はどうされるおつもりですか?」
そう言いながら風呂上がりで少しのぼせかけた俺に良く冷えた緑茶の湯呑みを差し出す。それを受け取って一口呑むと、爽やかな苦味とすっきりした甘み·····久しぶりに呑む緑茶に俺は感動しつつ話を続ける不知火さんの声に耳を傾けた。
「律花様のご意志は楼透さんを連れ戻す事と聞き存じておりましたから、出来る限りの情報は集めてございます。楼透さんが現在居るであろう場所も幾つか検討がついております」
「ホント!!?」
「はい。しかし、まだ確証はございませんので少々お時間を頂ければ確実かと」
いや、まさか不知火さんが俺の知らないとこでそんなに働いてくれてるなんて思ってもみなかった···。もしかして、明日明後日までに楼透を見つけて連れ戻すとかワンチャンいけそう?選択肢は三つ。楼透を説得し連れ戻す、説得を失敗した場合に何が何でも無理矢理連れ出す、諦める。
まぁ、諦めるは無い。楼透が俺の生死の何に関わってるのかは知らんけど、俺の人生の安寧の為には藁にもすがる、だってそれしか手が無いし。それに楼透といつまでもあやふやなままは嫌だから。
「付きましては、律花様にお願いがございます」
「ん?」
「私一人で行動しますと、目立ちますので律花様に蓮家をご案内すると言う名目で同行して頂きたいのです。又、どうかお一人での行動はお控え下さい。······蓮家は広いですから、道に迷うと、その······」
「そこは任せてくれ、俺も学んでる。そう何度もやらかさないよ。いくら厳島家の血が流れてるからって玄登さん程方向音痴じゃないと思うから。·······いや方向音痴じゃないからな?」
そう弁解する俺に困った様に笑い返す不知火さん。
これは多分信じてない。
はは······血は争えないって奴か?
行きにあった色々と言うのは俺の『方向音痴疑惑事件』。悲しいかな···転移ホールの方向や蓮家領地への方向を間違えたのも、方角を間違えて雑木林で罠に嵌ったのも、全ては俺のせい。いや言い訳させてくれ。俺は蓮家の領地に初めて来たんだ、それに美園本邸にだって来たのが久しぶりで街も大分変わってたし、記憶が曖昧なのも仕方が無いだろう?誰だって知らないとこに行ったら道くらい間違える筈だ。そうだろう?
「ホントに違うからな!?」
「信じて!!?」
どうやらこの疑惑が晴れるまでは時間がかかるらしい。
······くそ、こうなったら何が何でも汚名返上してやる!!
「······取り敢えず不知火さんが怪しまれないように俺も一緒に行動するってのは分かった。俺も一人だと心細いし、助かる。それに散歩とか行ってみたいと思ってた」
「そうですね。それなら尚更ご提案申し上げて良かったと思います······蓮家の領地はこのような田舎の辺境の地ですし、律花様は物珍しく感じられるかもしれませんがお屋敷の敷地を一歩出れば律花様にとってそこは魔境と思って下さい」
「······俺、そこまで方向音痴じゃないんだけど」
「畏まってございます。その点のみでなく、私も律花様を全力でお守りする所存でございますが、蓮家の領地には凶暴な魔物も多くいます。どうか、お一人でのご行動はお控え下さい」
いいですね?と、再度『にこやか』に言われれば俺は頷くしかない。俺、方向音痴じゃないからな·······。それに確かに俺単体だと激弱だし、魔物との実戦経験も少ないから余計心配かけると思うけど···。
あ。
「なら、散歩しながら魔物と遭遇するかもしれないんだよな?だったらさ、不知火さんにお願いがあるんだけど、俺に魔法を教えてくれない?」
「魔法·······ですか?」
「そう!」
って、事で外に出てきた訳だが。
「ちょ、なんでこんなにいんの!??」
「サイドは私が仕留めますので中央の一群をお願い致します」
「不知火さん!?」
バシュッ!!
背後から空気を切り裂くようにベアウルフ達に飛んでいく黒い物体······あれってクナイって奴!?カッコイイ!!とか言ってる暇なんてなくて···。
『グルルルゥ』
『グルルルゥ』
ヤバ······囲まれた。俺が不知火さんの放ったクナイに気を取られた隙にベアウルフ達は俺をグルリと一周するように囲んでいた。顔は熊、体は狼と言う見た目の怖さと歯を剥き出しにし俺を威嚇する姿に正直ビビる。
······でもな、安心しろ?俺はもっと怖いものを知っているはずだ。
「······魔法は苦手なんだけど!《旋風》!!」
俺を中心に生まれる風の竜巻。それが俺を囲んでいるベアウルフ達を巻き込んで、体積が大きくなっていく。風のランク2魔法《旋風》だ。
魔法にはランクがあって最大は5、その中でも俺が使えるのはランク2までで攻撃力は余り無い基礎クラスの初級魔法だ。
徐々に吸い取られる魔力量が多くなっていく感じがする。
······やっぱり駄目かっ、魔力の制御が出来ない!
風の竜巻はさらに大きく暴れ狂う。既に発動中の魔法への魔力の供給は止めているにも関わらず、俺の発動した魔法は俺の魔力を無理矢理吸って規模を大きくしている。不知火さんにはまだ俺が魔法を使ってる所を見た事がないからって普通に魔法を使うよう言われてたけど···。いつもこうなんだ、だから練習しようにも楼透が制御を助けてくれてて──。
「『明鏡止水』」
「え······」
その声と共に巨大化していた竜巻は勢力を一瞬にして落とした。何が起こったのかは分からない······。俺の魔法で宙を舞っていたベアウルフ達は何処へ行ったのか消えている。時が止まったのかと思う程静かに俺の魔法は沈静化していった。
「危ない所だったね·······リカ」
·······リカ···?
背後の声に振り向くとそこには黒髪の·······。
所謂、髪が伸び続けるって言う呪いの人形のような見た目の中性的な人がいた。漆黒のような深い黒の長髪、着ている着物も真っ黒でその人の色白さを気味の悪いくらいに引き立てている。呪いの人形に例えるのは失礼何だけど、見た目の雰囲気がピッタリなんだよな······。
あれ?そう言えば不知火さんは??
気づけば周りは霧が濃く、周囲の様子がよく見えない。だから勿論周りを見渡しても不知火さんの姿も見えない。近くに誰かいるよえな音もしないし······遠くまで来すぎた?いや、俺は全然動いてない。不知火さんだって周りでベアウルフ達と戦ってたし·······。
「······可哀想に」
「·······はい?」
「心配しなくていい、共に連れていた不知火の次男とは直に会える。でもその前に、私に暫し時を貸して。それでは余りに君が可哀想だ」
「···あの、何を言ってるのか······」
「おいで」
んんん???
ふわりと体が吸い寄せらせるように気づいたらその人の腕の中にいた。よしよし、と言いながら俺の頭をポンポン撫でる。
「ンンン!??」
助けてくれたのは感謝するが何故俺は見ず知らずの呪いの人形(仮)に抱き寄せられて、頭ポンポンされた挙句あやされないといけないんだ···?
「しかし呪いの人形とは···ククッ。リカは面白い喩えをする」
「なっ、お前も人外かっ!?」
口に出していないのに俺の思考を読むなんて人間だったら有り得ない。···いや、有り得なくも無いのか?前に父さんからそんな魔法があると聞いたことがある様な···。
「人外、と言うのは肯であり否でもある。私がリカの思考を読み取れるのはずっと近くに居た故にリカの考えている事を理解する等容易いからだ」
「···ずっと近くに居た?」
「くす、あぁ···それはもう幼き日よりすぐ傍にな」
「············背後霊みたいな?」
「近いが遠い。正確にはリカの傍で──」
プツンッ。
と、その時近くで何か···糸のようなものが切れた音がした。
「な、何?」
「···うむ。何とか解呪は終わったか···リカ、引き止めて済まなかった。時を貸してくれた事、感謝する。···うむ?」
呪いの人形(仮)は俺を離すと、何故だかジロジロと俺の体全体を見回すように目を向け唸る。···おい、まさかこいつも俺の体を狙ってないよな!?
「私は好色家故な、勿論リカもバッチリど真ん中であるが私からしたら余りに幼い。あと二百年リカが早く産まれておったら喰っておったかもしれんなぁ。まぁ、そうでなくても······ふむ。成程な、リカは良い物を持っている。それなれば私も今少し具現化出来よう」
「!?、っ!!、???」
何言ってるのかさっぱりだし、ツッコミ所が多すぎて入り込めんわ!!
「って、何して──っ!」
「少し大人しゅうしとれ」
俺が百面相している間に、黒長髪は俺の額の中心に爪の長い指先を当てる。ヒヤリと背中に嫌な汗が流れるのを感じるが、俺は言われた通りに静かにした。だって、俺の額にその指先が簡単にめり込みそうなんだ。このいつでも俺の額を突き破って息の根を止められますよーって雰囲気を放つ指先がめっちゃ怖いっ。
「うむ。承った」
は?
本当に少ししてからそう言って笑うと、俺の額に焦点を合わせていた指先を外す。俺はと言うとぶわりと嫌な汗が吹き出る感覚。別にチキンて訳じゃないと思うけど、足の震えが産まれたての小鹿だ。
「では私は用がある故、またな。リカ」
「ちょ、今何してたんだ!」
「なに心配するな。私がリカに従属したまでの事」
「そっかぁ。従属ね!ってこら待て。そんな説明で納得する訳ないだろ!俺の死を感じる程の危機的状況下でのこの胸の不整脈を治せ!!」
「それはプロポーズか?両想いとは嬉しい事だ」
「違ーーーう!!」
この世界はどいつもこいつも話の通じないバカばっかだ。ポッと頬を染めて言う呪い人形。ずっと俺の傍に居ただとか、俺を抱きしめて解呪が何だとか、突然従属したとか、意味の分からない事ばかりで説明もない。捲し立ててはぁはぁと息をする俺の背中を摩ると「また会える」そう言って消えていってしまった。
·······一体なんなんだよ。結局終始何があったのか分からないままだ。また会えるって言われても嬉しくない。この状況を誰か説明してくれ。
「律花様!!ここに居らしたのですね!」
「···不知火さん」
「魔獣の群れを撃退している内に律花様を見失ってしまいました。律花様の護衛の身でもあると言うのに、大変申し訳御座いません···!この不知火、腹を切って──」
「切腹ダメ絶対っっ!!」
切腹すると小刀を取り出した不知火さんを羽交い締めにして宥めて切腹を止めさせる。危ない、この人に小刀を持たせたら色々危ない!
「仕方ないよ。あの霧だったし」
「······霧、ですか?」
「え?」
「···え?」
二人して顔を見合わせ沈黙する。話を聞くとどうやら不知火さんの視界は明瞭で霧がかってなどいなかったらしい。
「······世にも奇妙な話、ってか」
笑えない。
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「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
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