悪役令息(?)に転生したけど攻略対象のイケメンたちに××されるって嘘でしょ!?

望百千もち

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本編

69.保護

「死んでるのかなって」
「···いや、息してないか?」


よく見ると微かにだが上下に動いている。怪我をしているのか前足首の毛が少し剥げて赤い出血が見られた。どうやら毛の塊は生き物らしい···でも何でこんな所に?学園内には守護獣ならともかく、目の前にいる動物は外から出入り出来るような小ささでは無い。大きさで例えるなら猫···メインクーンが極限まで丸まった感じ。

「おいお前らぁ!それ片づけとけ」

毛玉の周りに集まっていた俺たちは背後から声をかけられた。振り向くと武市子爵兄弟の兄、三部生の練習着を着た生徒が腕を組んでこっちを訝しげに眺めていた。

「···待って兄者、あれ美園だよ!」
「あぁん?だから何だ」
「父ちゃんが美園にだけは喧嘩売るなって言ってたじゃん!俺のクラスの奴、弟の方に告ろうとしたらヤバい事になって──とにかく美園だけはヤバいんだって!」

何やらどうこう言っているが俺は知らんぞ?
第一に自慢では無いが変な男にばかりモテる自覚はある、が中等科以前に告白なんてされた事はない。心当たりがあるのか、騒ぐ武市兄弟から目を逸らしている楼透。···裏で兄貴やら楼透やらが何かしらしていると思ったら·····。

「チッ······俺達はお前らが来たのに“今”気づいたんだからな。お前らが来なかったから練習を延長してたんだ、来るのが遅いお前らが悪い!俺達の練習の邪魔したんだから片付けるのを手伝え!どうせ今から片付けてもお前らが演習場を使う時間なんて十分も無いだろうからな」
「兄者~、その辺にしとこう!」

イラついた様子の兄を止める弟。支離滅裂に言いがかりをつけ続ける兄の方はともかく弟の方はまだ話が通じるかもしれない。

演習場を見回せば学園の備品である練習用の藁人形はズタズタに壊されて藁が散らばっている、壊れていると見られるものは約五体。その他にも数体転がっているが魔法具である藁人形にはそれなりの耐久度があるし、受けるダメージの軽減と自然修復の機能が付与されていた筈だ。これだけの数で実践を想定したとしても余程自然修復が追いつかないような雑な扱いをしたのか、最大級の魔法を連発したか、かなり限られてくる。楼透が俺の前に出る、微かに動いた唇の動きは『下がって』だった。


「···備品が幾つか破損しているようですが、宜しければ演習場の清掃は私たちが行っておきますので学園の事務職員の方にご報告の方お願い致します」
「あ?それはお前らが借りてる時間に壊れたんだ、弁償すんのはお前らだろ」
「待ってよ!僕たち使わせて貰ってないっ!それに壊したのは先輩たちでしょ?」
「うるせぇ!お前ら一部だろうが、目上の人間に逆らうなってべんきょーしてねぇのかよ!ガキ共は初等科からやり直してこい!」

······うわぁ、ここまで来るとこっちが冷静になってくる。前世でもこんな人を見たことある気がするんだけど···いつの事だったか。俺が反抗期の時にでも見たのかもしれない、かなりヤンチャしてたし。

わーわー訳の分からないことを言ってる奴をまともに相手することは誰でも面倒になってくる、相手を刺激しないようにやんわり聞き流すというのは前世で更生後に忍耐力を付けようと接客業のアルバイトをしていた事が割と役に立っているのかもしれないな。
しかし千秋は違う。容姿や怒っているその様子がまるでヒグマに噛み付く子犬のようだ。俺は千秋を宥めつつ、やんわりと話を聞き流し、交渉は楼透に任せる。楼透もより怒らせること程面倒なことは無いと分かっているのかいつもの俺へのトゲトゲしさはどこへやら···丁寧に言葉を選んでいる。


「もういい!お前らみたいな馬鹿な奴らを相手にしている程俺は暇じゃねぇんだよ!“そのゴミ”はお前らにやるわ、ゴミ同士お似合いだろ」


“そのゴミ”と指さしたのはさっきまで俺たちが囲んでいた汚れた毛玉。···怪我をした憐れな生き物だ。まさかこいつらが···?何をしたのか聞きたいが下手に出ればこの手の輩はネチネチ絡んでくることは履修済みだ。黙っている俺たちにいちゃもんをつけることに飽きたのか、それとも絡んでくる兄の後ろから俺たちを青ざめながら見ていた弟が制止したお陰か···俺達の足元に唾を吐いて立ち去った。

一体何がしたかったんだろう。嵐が過ぎ去ったようなそんな感じ、今頃怒りの感情が湧いてくる···。大体あの人は俺達の何を知ってあんな態度を取れるんだ?···俺は確かに馬鹿だけど、自分で言うのと初対面の人に言われるのは違うからな!?


「···武市兄弟、兄」
「楼透は何してるの?」
「排除対象のリストアップです。何故今までリストに記入していなかったのか謎ですね。千秋はきゃんきゃん吠える余裕があるなら律花様の盾にでもなって下さいよ」
「律花ぁ!やっぱり楼透可愛くない~!···?律花は何をやってるの?」


千秋の声に振り向くと楼透がどこから出したのか黒革の表紙のノートに何かを書く手を止め、千秋はかがみ込んで、ともにこちらを見ていた。何をやってるってそりゃ──俺は抱き上げた毛玉を見せた。


「これじゃなんの生き物か全然分からないな···人用の軟膏しか持って無いから使って大丈夫か分からないし、保健室行こうと思って。···保健室で大丈夫かな?」
















「······はい、手続き完了致しました。学園内に迷い込んだ生物の保護、所有者又は関係のある生徒と思わしき方は保護を距離されたと。こちらの方でも武市君達に事情を聞いてみますね。その上で対応が決まりましたら改めてご連絡申し上げます」

「はい、お願いします」


その期間ですが···と学園の事務員さんは言う。学園では預かることが出来ないから、俺らのうちの誰かが連れて帰るか、保護団体の方へ連絡を···って事だった。千秋は会長の家でお世話になっているし、千秋自身が「ダメ!この子は会長のお家絶対ダメ!」と珍しく慌てているから必然的に俺の家になる。保護団体に預けてもいいが、この子の場合はそれも難しい。


先ずは怪我の治療をと向かった保健室。保健室の先生は不在だったが先客が居た。錬金中に指先を切ったと言う霧ヶ谷さん、俺の腕の中にいる手玉を見るなり何をしに来たのか察したらしく俺たちに椅子に座って待つよう勧める。保健室の棚をカチャカチャと慣れた手つきで開けると中から消毒薬と包帯、それに乾燥させた薬草かな?それらを取り出し、机の上に置いた。
そして傷の様子を見てから、傷口の消毒の前にバイ菌が入らないように体を洗って上げようと言って霧ヶ谷さんが洗浄してくれた。宙に浮いた水の塊が優しく手玉を包み込み、だんだん水の塊が流れ落ちた汚れで色が変わっていく。傷口に触れると染みたのか体をビクリと振るわせていたが、危険なものではないと理解したのか汚れが完全に落ちた頃には大人しくなっていた。

「···うん、綺麗になった」

洗浄が終わり文字通り真っ黒になった水の塊の中から現れたのは美しい程黒光りする漆黒の毛並み。···何故か分からないが、不思議と黒羽を思い出す。

その黒毛の獣へ濡れた体毛を乾かしてから消毒し応急処置を施す霧ヶ谷さん。乾かされたらあれだけ泥で固まり縮んでいた体毛がもっふもふになっている···顔を埋めたくなる衝動に耐え抱き上げると見えなかった瞳と目が合った。綺麗なラズベリー色で、顔立ちは前世で見た猫のような感じ。体格はメインクーンみたいな大きさだけど、毛量のせいだろう···重量は一般的な猫と大差がない気がする。


「······もしかしたらこの子···変異種かもしれない。顔と骨格はキャロルキャットに近いかも、でも毛質は魔犬とかブラッドフォクシーに近い······?オレも···図感で見たことない···勉強不足···役立たずでごめん」
「そんな事ないですって!手当してくれて助かりました」

役立たずな訳ない。俺たちだけだったらこんな水の塊を長時間空中で操るなんて高度な事出来なかったから、応急処置にも手こずっていたかもしれない。

「あ、そうだ!俺が怪我したって聞いて霧ヶ谷さんがポーションとか用意してくれたって聞きました。バタバタしちゃっててお礼言えてなかったんですけど···有難うございました!」

霧ヶ谷さんは一瞬驚いたような表情をした。直ぐに両手を振りそんな事ない、俺の役に立てたなら良かったと言って笑った。確かにきっかけは最悪な出来事だったけど、俺相手にそんなに謙遜することもないと思う。···そう言えば翼の最推しは霧ヶ谷さんだったっけ。





霧ヶ谷さんにお礼を言った後、この子を何処で拾ったのか聞かれた為経緯を話すと事務員さんに話をしておくといい事を教えて貰った。そこで学園内で保護した···まぁ学園内で特殊な生き物を拾うなんてケースはかなり稀だから手続きと言っても落し物を拾った場合の手続きとなった。例えば所有者不明の財布を拾って三ヶ月以内に落とし主が現れない場合は拾った人に権利が移るらしい。勿論落し物一覧として校内に一覧表が掲示される為、財布の場合に落とし主が現れない事はほぼ無いと言える。
だが、今回は生き物。しかも何故学園内にこの子か居たのかを知っている様子の武市兄弟はこの子を『片付けろ』と言った。それが何の意味だったのか···近くにケージも無かったし片付けようにも生き物だ、どうすればいいのか俺たちからしたら分からない。


「きゅぅ···」
「大丈夫、俺ん家に行こうな」

保護団体に預ける事を考えられなかったのはこの子が変異種である可能性があるから。保護団体に預けた場合、一応学園の外部が介入する事になる···つまり三ヶ月と言う期限が有耶無耶になって反故にされるかもしれないからだ。そうなれば珍しい変異種のこの子は研究材料や実験対象にされてしまうかもしれない。···まぁ学園から仲介される保護団体について知っていた楼透から聞いた話だけど。どうやら当該保護団体の関係者に俺のストーカーがいて調べた事があるらしい。······一体俺には何人のストーカーがいたんだ?俺でさえ気が付かないうちに処理されてるって知ると怖いな。思わずしれっと言った楼透に引いたら、黒幕は兄貴だと証言した。お陰でストーカーからの実害が出なかったのか、感謝すべきなのか···複雑な心境だ。



『くぁ···全くリカの性質は難儀なものだな』

いつの間にかコクヨウが楼透の頭の上に乗り、コクリコクリと眠たそうに頭を揺らしていた。久しぶりにその姿を見る気がする。
感想 18

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