隣人まねーじめんと

高田良真

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真実

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 告白、告白だと思っていたよ、あの時は。

 俺は何故か今、校舎裏の冷たいアスファルトの上で正座させられている。足元ではダンゴムシがゆっくりと歩いており、どこか俺を哀れんでいるようにすら思える。あぁ、ダンゴムシ君よ、今はお前が羨ましい。

 俺の目の前には、ブロック塀に腰掛け、足を組みながら、こちらを見下ろす黒髪で長身の美女が1人。そして同じく塀に腰掛け、足をモジモジと動かしながら、不安そうにこちらを見つめる茶髪で小柄の美少女が1人。

 この言葉だけ聞けば、ある種のご褒美と感じる層もいるだろう。だが残念ながら、俺にそんな趣味はない。これを機にそういう癖に目覚める可能性もあるが、どうか勘弁して欲しい。

「どうする?東京湾にでも沈める?」

「な、何言ってるの!?さ、流石にダメでしょ」

 昔テレビでやってた仁侠映画のセリフみたいな、恐ろしい事は言わないで下さい、心臓が止まってしまいます。てか、『流石に』じゃないでしょ。絶対にダメでしょ。

「あの、さ、桜木さん、ちょっとキャラおかしくないですか?」

「そ、そうだよ、モモちゃん。沈めるとか怖いし、別にそんなに怒らなくても良いでしょ?」

「もぉ~、愛莉は今の状況をもっと真剣に考えた方が良いと思うよ。誰かに言いふらす前に、こいつを富士山の樹海にでも埋めてくるべきだよ」

 俺の中で性格とキャラクターが完全に真反対だ。何故にモモちゃんと呼ばれている桜木桃華さくらぎももかがドSで物騒な発言を繰り返しているのだ? そして何故に愛莉ちゃんと呼ばれている、他称『鉄の女』の二階堂愛莉にかいどうあいりが、その発言を諫めているのだ? どっちかというと立ち回りが逆だろう。

 確かに、足を組み、冷たい目で見下ろす二階堂は、どこからどう見ても、「東京湾に沈める」、「樹海に埋める」なんていう恐ろしい言葉が似合うかもしれない。だが、今もおっとりとした目で、どこか心配してくれているような優しい顔の桜木が言う発言ではないだろう。

「あの、どうか命だけは?」

 俺は痺れかけている足を少しだけ崩しながら、弁明の言葉を返す。

「え? あの、誰が足を崩して良いって言いました?」

 桜木は聖母のような笑顔をこちらに向けながら、そう言い放ってくる。

「いや、もう15分近く正座してるんだよ。村瀬くんも悪気があった訳じゃないんだから許してあげようよ。ほら、村瀬くんも立って立って」

 二階堂はブロック塀から立ち上がると、正座している俺に近づき、立つようにジェスチャーをしながら、俺の体を気遣ってくれた。そんな二階堂の姿を目にした桜木も塀から立ち上がると、素早く二階堂を俺から引き離し、続け様に怖い言葉を投げかけてくる。

「危ないよ愛莉ちゃん。このストーカーから離れて」

 桜木は俺が二階堂のストーカーだと勘違いしているのだ。  

 それは昨日の夜の出来事に起因する。俺が夜中に隣人宅、二階堂の家を訪れた事だ。

「いや、本当にストーカーじゃなくて。二階堂さんが兎木ノアさんって事も直前まで知らなかったんです」

「そうだよモモちゃん。昨日の夜は結構騒いじゃったから。私が悪いんだよ」

「本当にこいつが隣人なの?それすら怪しいでしょ?それに、夜中にいきなり女の子の家に来るなんて非常識すぎるでしょ」

 俺はここに呼び出されてから、昨日の夜の出来事について事情聴取を受けた。そこで俺は嘘は吐かず、本当の事を全て話した。たまたま兎木ノアという名前が聞こえた事。本当に隣人だと言う事。まさか二階堂が隣のアパートに住んでいるなんて知らなかった事。そして勿論、ストーカーではない事。

「本当に間違えて兎木さんって呼んじゃっただけで、二階堂さんがVtuber? 配信者だったなんて知らなかったんだよ」

 そして俺が改めて気づいた事実。それは昨日の去り際に、二階堂を間違えて兎木と呼んでしまった事だ。あの時は気が動転していて、間違えて呼んでしまっていたらしい。そのせいで俺は兎木ノアのファンで、リアルにストーカーに来たヤバイ奴扱いを受けているのだ。

「私も朝、隣の家の表札を見たら、ちゃんと村瀬さんって書いてあったし、本当にお隣さんなんだよ」

 二階堂は桜木の怒りを抑え、俺を助けるために、必死で弁明してくれている。あぁ、今になっては二階堂が天使で、桜木が悪魔に見える。

「本当にこいつが隣人なのかな?もしかしたら隣人の村瀬さんの名前を名乗ってるだけじゃないの?」

「え? あっ、そう、かな?......いやいや違うよ。だって学生証も見せてもらったでしょ? ちゃんと苗字が村瀬だったじゃん」

 二階堂さん、ちょっとチョロくないですか? なんかアッサリ論破されそうになってますが? 良い意味だが、二階堂のイメージがどんどんと崩れていく。こんな天然というか、おっちょこちょいな姿、かなりレアじゃないか? けっこう役得じゃね。

「なんか変な事考えてるでしょ?」

「え!? いやいや、そんな事はないですよ」

 桜木はおっとり顔なのにやけに感が鋭い。桜木にいたっては、天使のような優しいイメージがガラガラと音を立てて崩れ去っていく。クラスでは結構普通だったのに、なんか怖い。これが女の裏の顔って事なのか?

「モモちゃんがそんなに信じてくれないなら、一緒に村瀬君家に行ってみようよ。それで納得してくれるでしょ?」

「まぁ、そうだね。でも、もし嘘ついてた事がバレた時は、分かってるよね?」

「はいぃ」

 桜木の顔は朗らかで、声も暖かみのある優しい声色なのだ。それなのに、めちゃくちゃドスが効いてるように聞こえるのは俺の気のせいだろうか。怖すぎて思わず口が震えて、思うように言葉が出なかったぞ。

「ほら、じゃ早速出発しよ。村瀬君も、ほら、立って立って」

 普段よりかは幾分か抑揚がつき、明るい声でそう話す二階堂に促され立ち上がる。正座で痺れた足に、名一杯の力を入れて立ち上がるが、桜木の恫喝もあってか、多少足が震えている。

「ぷぷぷ、生まれたての小鹿みたい」

「ははは、そ、そっすね」

「もぉ、モモちゃんやめなよ。村瀬君大丈夫?」

 桜木に震える足を小馬鹿にされながら、そして二階堂に体を心配してもらいながら、この容姿と性格がチグハグな2人に連行されて、俺は人生初の『女子と一緒に下校シチュ』を体験するのであった。
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