望月何某の憂鬱(完結)

有住葉月

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第一章 船出

3、訪問したら

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省線に乗って、辻の家の最寄りまで着いた。
「なあ、君は他の家でご馳走になることに何か意見があるようだね。」
「なんのおもたせもなく、豪邸に突然伺うなんて初めてです。」
「大丈夫さ。僕と辻の中だからそんなことは気にしないだろう。」

意外に普通ぶったことを言うワイフだ。
「君は凡人なワイフだね。」
そう言った時、僕の奥さんは洋装店のショーウインドウに釘付けだった。
「何?着たいの?」
「いえ、以前読んだ西洋の御伽噺のようで素敵な服だと思いましいて。」
もう夕飯のことなんてどうでもいいのが、このワイフだ。

「あれ、あなた、先ほど何か言いかけました?」
「まあいいよ。君が気にしてなければそれならいい。」

ショーウインドウの前に、しばらくいたら、店内から声をかけられて、いそいそとその場をさった。

「ああ、素敵だったなあ。」
「あんなドレス着てどこ行くんだい?」
「ううん。あんなドレスを作る人って素敵だなって。」
「ドレス職人になりたいの?」
「わかりません。先ほど、本物を初めてみて、感動したから、すぐにそんなことは思ってもみませんでした」
「ねえ、ワイフ。君はお腹の虫とあのドレスが君の欲望をどうやって満たしてくれるんだい?」
「でも、、、、」

ちょっとワイフは臍を曲げた。
女というのは面倒だ。
しかも、この女性、まだ17歳。子供だよ。子供が子供産んじゃったから、厄介かもしれない。

「職業婦人になって、僕を食べさせてよ。」
「私には淳之介がいますので。」
「だって、群馬ですくすく育ってるじゃないか。」
「あなたを連れ戻すようにお母様に言われてるんです。」
「僕は帰らない。今日は辻の家に行く。」


ワイフは世間知らずだ。女学校だって、通いたかったのに妊娠中毒というものになって辞めざるおえなかった。
成績はまずまずだったらしい。まあ、ワイフの亡き父は有名な弁護士だったというのも彼女の聡明さに拍車をかけたのかもしれない。
しかし、聡明と世間知らずは違う。

二人で、辻の門まで来た。
いや、辻大大家の門か!
門の先に家が見えない!

恐る恐る、門をあけ、歩みを二人で進める。
「あのお、あなた、突然こんな豪邸に来て良かったんでしょうか?」
「なるようになるさ」
言ってる端から緊張がみなぎる。
しばらく歩くと坂があり、洋館が見えてきた。
もうここまでくると、羊羹、洋館、羊羹もうわけがわかない。
家の前には門番がおり、話しかけた。

「僕ね、望月と言って、帝都大で辻くんと同期なんだ。今日招かれててね。」
「え?御坊ちゃまにお客陣ですか?」
「そう、だから繋いで」
「はい!すぐに」

そうすると、門番は颯爽と家の中に消えていった。
二人はホールで待つように言われた。

場違いなところに来たことを悔やんだのは望月だけではない。
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