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第一章 船出
6、ワイフ
しおりを挟む僕の名前は望月何某。どうしても僕の名前が気になるって?
僕の華々しい人生を聞いているうちに、気になって仕方なくなってる?
でも、言わないよ。僕は僕という人物だからね。
ということで、夕飯を辻の家でいただいて、ワイフと帰ることにした。
「馳走になった。急ですまなかったね。」
「いやいや、望月くんの奥様に会えたのは本当に良かったよ。これ、洋菓子のクッキーというだけど、みやげに。」
そういうと、辻は僕にクッキーが入った缶の箱をよこしてきた。
「わー。辻さん、こちらクッキー缶ですか?」
「アグリさん、ご存知ですか?」
「昔、父が外遊した時にお土産に買ってきてくれたんです。」
「ほお、そのお話も面白そうですね。また遊びにきてください。」
「はい、ぜひ!」
もう一度だけ言う。辻、僕のワイフを口説くのはこれでやめてくれ。
二人は嬉しそうに二人だけの世界に入っている。
ワイフ、君は僕の奥さんなんだよ。わかってる?
「さ、もう帰ろう。辻に迷惑になるし。」
「辻さん、本当にありがとうございました。」
二人で、辻に一礼すると、家を出た。
「ワイフ、君、辻にデレデレしすぎだよ。」
「え?デレデレ?」
「僕より、辻と生き生きお話ししてたじゃないか。」
「だって、夕食が美味しかったんですもの。」
ああ、僕は君にあんな料理を振る舞うほどの金は今持っていない。
しかし、あんな男に色目を使うのはいけないじゃないか。
「ワイフ、僕は帰ったら、執筆するからね。邪魔しないでよ。」
「あのお、そのワイフッってなんですか?」
「え?知らないの?」
「はい。」
「奥さんって意味の英語だよ。」
「舶来語でしたか。でもなんで名前で読んでくださらないんですか?」
「僕の自由を研究するためだよ。わかってくれ。」
ああ、僕ったらなんてなんて格好いい言い方。
僕のワイフも僕を見惚れてしまうだろう。
と思ったら、3歩先を歩いている。
「ねえ、あなた、省線終わる前に急ぎましょ。」
ワイフが足早に駅へ向かう。
僕は不本意だったが、それを追いかけた。
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