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第四章 夢を見つけた

15、さあ、いざ群馬へ

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電車はまずは群馬を目指す。

「まあ、いいとはいったが、気乗りしないなあ。」
まだブツクサと望月はいっている。
実家が嫌いで東京にきているのに、なぜわざわざ実家に寄らなければならぬのだとちょっとせねていた。

「僕もさ、望月くんもさ、実家が嫌いだろ。そこをあえて、利用して旅行しようということさ。上には上を行かなきゃだよ。」
辻は簡単にいう。そりゃあ、辻は実家にいるからそこまで抵抗感がないのかもしれない。
望月はどうしても継ぎたくないから東京に来たし、今行くと、また担ぎ上げられるのが怖くもあった。

「ねえ、やっぱり群馬に行くのかい?」
「もう決まったじゃないか。君の世継の件などはきちんとそらして交渉するよ。君は家の中でフラフラしてもいい。」
「親父とはなしてくれるのは辻くんということか?」
「前に、君は父上の浮気相手のことでお金を拝借しなかったっけ?」
「そう、親父はね、東京の世話をしてくれたある女将と昔ねんごろだったのさ。それを母さん言ったらっていったら、一封くれたよ。でも二度もできんだろ。」
「そうだね。人として二度同じことで脅すなんてことは悪党じゃなければできないさ。僕は君の父さんに話して、普通にお金をもらうつもりさ。」

望月が辻の顔をまじまじと見る。
「君は本当におかしなことばかりしたがるね。」
「そうだね。でも、お金を持ってるのに持ってこないことがこの旅の醍醐味なんだ。困難と思えることもさらっとやってのけなきゃ自由は勝ち取れないよ。」

そう、辻は最初から群馬に寄ろうなんて考えてなかった。でも、望月の家が今少し揉めているということも若干引っかかっていた。
「僕は、君の救世主になれるかな?」
「辻くんが?救世主というより、イエスキリストかもね。」
「どうしてだい?」
「僕は、君に助けを請わなければならない。それは今の群馬に行くこともふくめてだけどね。」
「では、ジーザスクライストと呼びたまえ。」
「冗談がすぎるよ。舶来人が乗ってたら、憤慨されるぜ。」

そう言えばそうだ。冗談がすぎる。でも、櫻との距離がこうやって電車に乗ってるうちに、自分に影を落としている。
そして、自由とは、彼女との関係をより深めたい自分に向き合っていかなきゃならない。
この手で触れたい。でも、少しの間、彼女を抱きしめることも、接吻することもできない。
そうだ、この思いを詩にして電報でだそう。
会話をしているうちに、辻は深くそう思った。

「もうすぐ、群馬入りするね。まずは、君の実家によって、僕が交渉しよう。」
「えーーー。もう、辻くんは強引だからね。。。」
気乗りしない望月を引っ張ってあとは、電車を降りたら、旅行の手始めだ。
今日の成果を早く櫻に伝えたい辻であった。


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