上 下
63 / 416
第四章 夢を見つけた

14、夏休み 旅へ

しおりを挟む

夏休みになった。学校は休みに入り、櫻は望月家から直接職場への向かう生活になった。
月曜日だけは午前中自由にしてよく、午後は淳之介の家庭教師をやった。

一方、夏休みになってすぐに辻は旅に出た。
櫻にはすぐに立つと言っていた。櫻は少し寂しがったが、自分には今旅という自由が必要と再認識したのだ。

「やあ、辻くん、早いね。」
「望月くん、君はこざっぱりした格好できたね。」
「東京駅からどうしようかね。とりあえず、北へ向かう列車に乗ろうか。」
「僕は、ちょっとずつ北に行きたいんだ。とりあえず、君の実家のあたりを目指そうじゃないか。」
「えー。父さんには会いたくないんだけど。群馬に行くってのかい?」
「群馬は格好の温泉場じゃないか。しかも、その資金を君の父上から拝借できる。」
「それは脅しだろ。君が教えてくれた方法だね。」
「脅しじゃないよ。拝借だよ。いや、援助ともいうね。」
「そもそも櫻くんに夢中で、行くか迷っていた君が、急に旅に行きたくなったのはどうしてだい?」
「正直いうと、まだ夢中の最中だよ。だから行くんだよ。あの子が遠くにいる時の自分がどうなるのか実験して見たくてね。」
「マゾヒズムというところか。僕の趣味じゃないね。アグリは相変わらず、旅に行くよって伝えても、そうですか、行ってらっしゃい、だって。」
「アグリくんは君を信用してるんだ。だからこそ、その関係を僕は羨ましく思うよ。」
「粋狂なことだね。僕とアグリを羨ましいなんて辻くんがいう日が来るなんてね。そこまで変える櫻くんがますます知りたくなったよ。」
「おいよせよ。君は何ふり構わずなところがあるじゃないか。」
「それは君もだろ。」
辻はそう言われてハッとした。
「そうだ。僕はプレイボーイぶって嬉しがっていたよ。それはそれで楽しかったよ。でも、自分が自分らしくあるために、櫻くんを思うために僕は旅に出るよ。」
「月天承知の助。そう来なくっちゃあ。さあ、乗車券を買って群馬を目指してみようか、僕はちょっと気が乗らないけどね、実家に寄るなんて。」
「たまには君の顔も見せないと、親不孝になるさ。僕なんて毎日父親と顔を合わせてるんだから、そこは親孝行なのかもね。朝ごはんなんて無言だけど。」
「そういう、変に真面目なのが辻くんだよ。旅に出ることはいったのかい?」
「勘繰られても嫌だから、普通に朝ごはん食べただけだよ。旅に出ることを知ってるのは櫻くんだけだ。」
「本当に馬鹿野郎だね。女に居場所を教えるなんて、酔狂だ。ハハハ。」
本当に酔狂だと辻は思った。でも、もう変えられないこの性分。櫻という守るものができてしまったのだから。
そして、これから旅に出る。
しおりを挟む

処理中です...