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第五章 新たなる世界へ

2、いざ伊香保へ

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望月の家を後にした、辻と望月は駅まで磯辺に送ってもらい、さよならを言った。
「この磯部、また坊ちゃんが帰るまで望月組守りますから!」
「磯部、そんなに頑張らなくていいよ。望月はまだまだ安心だ。」

駅から電車が発車するまで磯部は手を振っていた。
「望月くん、あそこまで磯部さんが君を想ってくれるなんて羨ましいね。」
「辻くん、嬉しいは嬉しいけどさ、僕か勇蔵が継がなきゃならないんだよ。それが磯部の中にあるから必死なんだよ。」
「でもさ、僕は思ったけど、磯部さんの部下の人も有能そうだったし、必ずしも君や勇蔵くんが継がなきゃいけないのかな。」
「古い社会だからね。出版社の社長なんて有能な奴が次々ついでいくだろ。そういう方が僕もいいと思うんだ。」
「僕もだよ。うちの父親も僕が辻を継ぐことを諦めてないからね。。僕はそんな器じゃない。」

お互い、世継ぎという抗えない事実をどうにか打破したく生きてきた。そこにダダイズム。自由主義だ。

しばらく電車は北へと向かう。
「今日の一泊目は渋川で降りて、温泉街へと行こうじゃないか。」
「そうだね、温泉旅行なんて最後の方できるかわからないしね。辻くんからまともな提案だね。」
辻は伊香保に行ってみたかった。
本当は櫻と旅行をしてみたい。櫻はニコニコと僕と旅行を楽しんでくれるのだろうか。
手を繋いで、浴衣を着て、温泉街を巡るのだ。
きっと、浴衣姿が似合う櫻を想像して、辻はニコニコしてしまった。

「あ、辻くん、エロティックな想像していたね?」
「失礼な。僕は低俗な想像はしないよ。でも、櫻くんと旅行に出たら楽しいだろうと想像していたんだよ。」
「僕はね、いろんな女性と旅行に行ったけど、やっぱりアグリと一緒がマイペースでいられるよ。」
「逆に、君のペースにならなそうだけど。」
「いや、アグリは余計なことは言わないし、初めてのことは素直に喜んでくれるしね。妻にするなら偉ぶらない女性だよ。」
「僕も、誰からも反対されない結婚がしたいね。櫻くんをそこの位置まで持っていかなきゃならない。」
「旅の間、ゆっくり考えるといいさ。あ、もう直ぐ渋川だよ。」
「さあ、では温泉街と繰り出そう。」

二人は駅を降り、温泉街へと向かうバスに乗った。
東京とは違った景色が辻の心の中に自由の響きを味合わせたことは間違いない。
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