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第五章 新たなる世界へ
6、櫻の渡せないラブレター
しおりを挟む辻が伊香保を離れて、手紙を出してから3日後、櫻の元に辻の手紙が届いた。
今辻がどこにいるかはわからない。
夕食が始まる前に、アグリから手紙を渡された。
直ぐに読みたかったが、皆がいる手前、部屋に手紙を置きにき、直ぐに食事に戻った。
食後の談笑を断り、部屋に戻った。
本当は早く読みたかったのだ。
辻先生がどう過ごしているのか、私をどう思っているのか。
読み終えると、それは徒労であったと知った。
辻の愛情深い、それでいて力の入っていない手紙が櫻をここまで幸せにするなんて、不思議だった。
辻には出すことはないけれど、返事を書こうを思った。
一生この手紙が、辻の手元に行くことはないかもしれない。
でも、櫻はノオトを開き、辻への思いを書き始めた。
「先生。
私も、前略とかそういうのなく、書きます。夏休みに入ってから仕事の毎日で、新しいことや1日の過ごし方など
色々と変わって、私自身も職業婦人に背伸びできているかなと頑張っています。
辻先生がいなくなって、私の支えはあの電報でした。最高のラブレターでした。
愛というものを教えてくれたあなたを私は幸せにできているのだろうか。
私という立場があなたに煩わしくしていないか、気になっていました。
でも、今日いただいた手紙で先生の心に私が住んでいるということをしって、
本当に嬉しくて、踊りたくなる気分です。
踊りなんて、したことないけれど、西洋のダンスパーティーなどで楽しそうにしてるでしょう?
私、先生といろんなところに行きたい。それが机上の空論だったとしても、実際いかなくても
あなたとならどこへでも行ける気がするんです。
私を伊香保に連れて行ってくれてありがとう。
もう、ずいぶん北に行ってるでしょうか。
暑い夏だからきちんと食べ物に注意いして、体を壊さずにお過ごしください。
ラブを教えてくれてありがとう。
櫻」
櫻はそっと書いてノオトを閉じた。
部屋の小窓から見える夜空を見て、辻と繋がってるこの空の下に元気でいる辻を思った。
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