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第六章 愛を確かめ合う関係

12、辻の短編

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百貨店見習い婦人 作;通り美智子


カタカタとブーツで走る音がまだ開店前の百貨店の廊下に鳴り響く。
ここは帝都、中心の百貨店だ。

彼女は16歳。まだ百貨店に入社したばかりで、洋服を売る売り場の売り子をしている。
「切らしていた、ブラウス、持って来ました!」
息を切らして、先輩職員に渡す。
「急ですまなかったわね。この夏は本当にブラウスが飛ぶように売れるわね。」
この物語の主人公、加藤萌は憧れのこの帝都にやってきて毎日のスピード感が早くてついていくのがやっとだった。

「加藤さん、体調はどう?」
「どうにか。でも、下宿先で食事も作ってもらってるので助かります。」
「そう、一人暮らしなんて本当に大変よね。私もまだ下宿からは出られないわ。」
「先輩はすごいです。お化粧も華やかで、もっと私も勉強しなくちゃって。」
「休みの日も、コスメティックのコーナーでお化粧を習うといいわよ。買えるものは少しずつ揃えていく、それがコツ」

しばらくして開店した。
どっとお客様が入ってくる。婦人服、特に洋装は今の流行りで夏服探しでごったがえす。
会計うちの萌は計算が間違わないように、精算をしていた。

あっという間に1日が終わる。
「お疲れ様でした!」
終わると、職員の皆がパッとまた明るい表情に変わる。
「あら、加藤さん、おめかししてデエト?」
「いえ、そんな滅相もない」
でも、実は加藤は秘密にしていたが、百貨店の隣のパン屋の職員と恋仲になっていた。
恋する自分、働く自分、違う側面を持っている。
この恋がいつまで続くかわからないが、今は本当に相手が愛おしいし、会える時間も嬉しい。

二人は銀座の裏手にある小さな神社で待ち合わせをしていた。
「お待たせ」
「そっと、そちらの影に行こう」
男性が手を引く。そして二人は抱き合った。
「君は今日も頑張ったね。」
そう言われると萌は1日の疲れも吹き飛ぶのだった。
職業婦人見習い。まだまだ未来は続く。







辻の短編はこう言った内容だった。
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