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第六章 愛を確かめ合う関係

14、車での昼食

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「先生、今日のお昼ご飯はなんですか?」
「いっぱい働いてお腹が空いてるんだね櫻君。何が食べたかった?」
「坂本さんが用意してくださるものならなんでも。」
「坂本よかったね。今日はおにぎり弁当だよ。」

辻から弁当を渡されて、蓋をあける。
おにぎり二つに卵焼きとたくあんが入っていた。
「わあ、美味しそう。」
「君のその顔をみられるだけで僕は嬉しいね。」

ちょっぴり恥ずかしくなったが、櫻は海苔で包まれたおむすびを手に取った。
「いただきます。」
口の中で海苔と鮭がご飯と相待ってなんとも言えない美味しさだった。
「本当、美味しいです。美味しすぎます!」
「櫻くんのその一言が欲しくて昼食の時間も明るくなるね。」
「だって、本当においしいんだもの。」
「頬を膨らませるのもかわいいね。」

いつも言葉でもいじめてくる。
でも、それは愛情と知っている。
こんな平和なやりとりがなんとも幸せで櫻は本当に嬉しかった。

「私、本当に毎日先生とお昼が食べられて嬉しいです。」
「僕も、君の働いている時間を少々いただいて会えることに感謝してるよ。そのおかげでね、僕もきちんと働こうと思って絡繰の研究論文を進めてるところなんだ。」
「絡繰の?」
「そう、未来の帝都がどうなるかっていう論文でね。帝都大の時からのずっとテーマなんだけど、100年後の帝都を考察しているところさ。」
「私も時間と身分が許されるなら、絡繰クラブに入ってみたかったです。」
「うん。僕も君と一緒にクラブをしたかったよ。でも、こうやって二人きりで会えるのも一興だろ?」
「先生からいっぱい未来の話聞きたいです。」
「まだまだ研究が序盤だからね。女性が働きやすい社会について今取り掛かってるよ。」
「それって女性と男性が平等ということですか?」
「ザッツライト!今は上司が男性の会社が多いだろ。それが関係無い世の中になってるってね。」
「夢のような話です。先生は女性の希望を叶えるような未来を見ていますね。」
「あなたと出会って、僕は変わったんです。櫻くんがこう変えた。」
櫻がおにぎりを持っているのに、辻は抱きしめた。
「先生、、私おにぎり。」
「いいんだ。ちょっと抱きしめさせてくれ。」
二人はしばらく無言でお互いの鼓動を聞いていた。
坂本運転手が息を殺していたのはいうまでもない。



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