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第六章 愛を確かめ合う関係

15、意外にも早い掲載

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辻は出版社に来ていた。
「辻さん、早く載せたくてね、早速次号に載せようと思うの。」
「僕も出版をやっていたが、そんなスピードできるものなのかい?」
「うちもそこそこ売れてるんですよ。だからね、挿絵を早く見ていただきたくて。」

そう、先日、望月から来週と言っていた挿絵の件、早く来てくれないかと学校に電話があった。
「学校に電話でご迷惑かからなかったかしら?」
「望月からですから、なんとでも言い訳できますよ。ご安心ください。」

富田編集長が安心した顔をしたところで、脇に抱えていた挿絵を出してきた。
「こちら一枚なんだけど、どう?」

月に向かって背伸びをする洋装の女性が描かれている。

「内容じゃなくて、印象を書いてくれたんだね。」
「そう。夢に向かって手を伸ばしているっていうニュアンスね。」
「気に入ったよ。実は、青踏の月のイメージが根底にあるからね。。」
「まだまだ、女性は太陽になれない。でも、月に手が届いたら太陽にだってって私も思うのよ。」
「富田編集長は若いのにここまでの地位まで築いて、女性の憧れだね。」
「その代わりに捨ててきたものは多いわよ。アグリみたい子供を持つ将来をやめてしまったしね。」
「子供は欲しくないのかい?」
「言ってなかったかしら?私、軍人と結婚してたのよ。結婚するときに新聞社をやめてほしいって言われたんだけど、それでもやめられなくて、主人と子供と家庭を築くことをやめてしまったの。」
「君の人生も小説のようだね。今度、望月と一席設けよう。」
「あら?そんなことして、かわいい子猫ちゃんが怒らないかしら?」
「君にはバレバレかな?」
「あの女学生さんでしょ?辻さん、嫌にエスコートなさってたもの。」
「まいったな。内緒にしてくれよ。」
「無粋なことはしないわ。この小説が彼女の心に届くといいわね。」
「そうだね。」

辻は、冨田のことを改めて感心した。さすが20代にして編集長になるやり手だ。
櫻と同じだが、いろんな世界で揉まれてきたから人のことがわかる、そういう人物だ。
さて、これが来月載るとなると、早いところ櫻の目につくだろう。夏休みの働く彼女に早く届くことを嬉しく思った。
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