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第七章 新しい夢探し

16、決心

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夜、櫻は自室でランプをつけ、腕時計を見つめていた。
ごげ茶色のベルトに銀色の丸い時計。時間を示す文字は英文字であった。
時計は教室にも、職場にもあったので腕時計を必要としたことがなかった。
しかし、辻と一緒にいるとちょっと過ごしすぎかなと気になったこともあった。

アグリには全部見えているのだろうか。
自分とは違う形だけど、女学生で伴侶を見つけたアグリ。
親が決めた相手ではあったけど、望月の二人はとてもお似合いだ。

自分がいつか辻と一緒に世帯を持つことができるのだろうか。
でも、そうなるために今は勉強も、出版社や洋装店での修行も頑張らなくてはいけない。
どの自分も、今は好きだ。

こう言う自分にしてくれたのは、辻、その周りの人たちだ。

結婚間近で家を出たことを、後ろめたいと思ったこともある。
しかし、今は後悔していない。
私がこの道を選んで、とても幸せだからだ。

「あー、本当にいい1日だった」

声に出して言ってしまった。
しかし、あえて声に出して満足した。

辻は応援してくれている。私も夢に向かって、職業夫人になるべく努力を惜しまない。
いつか、望月夫婦のように笑い合った家を作ることができるように。

そして、望月の父と会うことになることが近づいているのはこの時の櫻は知らない。
もちろん、辻も、辻の父も。
この三角形がどう言う形を作っていくかは夏の駆け引きとなる。
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