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第七章 新しい夢探し
15、辻の想い
しおりを挟むアグリの気遣いで、時計をもらった後、書斎で少し二人の時間をもらった。
「本当にアグリくんは粋だね。」
「私、、何も返せてないのに、、、」
「僕はね、君が今まで色んな人を幸せにしてきたんだと思うんだよ。本人は認識していないけどね。」
「でも、感謝されたことなんてないです。」
「君はさ、幸せになることから逃げていなかったかい?」
辻から聞かれるとそうかもしれないと思った。
父から奉公に出された時、結婚を言い渡された時、連れ戻されそうとした話を聞いた時。
自分の境遇を呪った。しかし、辻と出会ったことで、櫻の運命の歯車は大きく動き出そうとしていた。
「私、こうやって、落ち着いた空間で先生と過ごせることが幸せです。」
「君はいつも嬉しいことを言うね。でも、僕たちだって望月たちのように毎日過ごせるようにならなくてはだよ。」
「それには、私の出生も経歴も辻には見合いませんよね。」
「言いにくいけど、それはそうなんだ。しかし、僕の父は僕は嫌いだけど、変わり者でね。能力のあるものに対しては出が動なんて気にしない人なんだ。」
「それって」
「そう。君が立派な職業夫人になって店でも持ったり、あるいは夜を賑わす文士にでもなったらそれはそれで一つ認めてくれるんじゃないかって思うんだ。」
「でも、お母様、出て行かれたんですよね?」
「母のことは僕は尊敬してるよ。でも、東京の空気が合わなかったんだ。北海道の小樽から小樽小町で有名でね。それは美人だって言うんで、父が母を東京に連れてきた。でも、毎日のダンスパーティー。乳母のいる子育て。全てが彼女の意にそぐわなかったんだよ。父は大変怒ってね。なんでも与えてるのに、なんでそんな沈んでるんだって。だから、僕はね、恋愛をして結婚することを心の奥底で願ってたんだ。よく相手のことを知らないで結婚することの惨さを知ったからね。」
「私と自由恋愛して先生は幸せですか?」
ふふと辻は笑った。
「もちろん。」
ふわっと抱きしめられた。
櫻はこの優しい抱擁を短い時間だったが、存分に味わった。
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