夢は職業婦人〜カラクリ御曹司と偽お嬢様の恋

第九章 成長に合わせて

5、佐藤支店長の来訪

クリスマスも後数日と迫った頃、佐藤支店長が新婦人社にやってきた。

「あら？佐藤支店長？今日はいかがなさって？」
「富田編集長、今日は、あなたと江藤さんを夕食に誘いにきました。」
「私たち二人？どういうことかしら？」
「私の家でささやかな夕食にとおもいまして。」
「まだ辻百貨店の広告をいただいてるだけでも素晴らしいのに、いいんですの？」
「はい、ぜひ。」
「櫻さん、あなた大丈夫？」
「はい、でも望月の家に言わなくては。」
「それは辻のぼっちゃまからいっていただくことになっておリますので」

ということで、3人は品川にある佐藤支店長の家に向かうことになった。

瀟洒な洋館で、素敵な家だった。
二人は広いダイニングに通された。

「私は実は出身は京都で。訛りも出そうなのを堪えて東京で暮らしています。今日は京都で普段の料理のおばんざいをあなたがたに振る舞いますよ。」

二人が腰掛けると、食事を女中が用意し始めた。
どれも素材の味が美味しい料理が出てきた。

「さて、今日、こちらにきていただいたことを話す前に、私のことを話しますね。」
かしこまった佐藤支店長に櫻は緊張した。

「この家は今、私と数人の女中が住んでいます。家族はもう私1人で。長男は大阪の大学、長女は嫁に行きまして、妻と次女は数年前にスペイン風邪で亡くなりました。」

3人とも無言になってしまった。

「ああ、気を使わせてしまいましたね。もう慣れたと思っていたんです。そこに辻のぼっちゃまから、江藤さんを養女にどうかとご相談を受けまして。」
「いえいえ、、断っていただいていいんです。私のようないやしい出のものは。」
「その逆です。次女が亡くなったのは女学校の2年でした。そうあなたと同じくらい。卒業したら、職業婦人になると息巻いていました。お嫁にも行きたいと。でも、その姿も見られず、天国へ行ってしまった。妻と。」
「。。。。。」
「だからこそ、我が家に養女に来ていただきたいのです。」
「でも」
「あなたのお父様の問題はぼっちゃまから相談を受けています。最終学年になる前までに解決できるよう、動きたいと思っています。」
「そんな、私のようなものが、こちらの家に。。。」
「あなただからこそ来ていただきたい。娘にも本当に似ているんです。」
「今お世話になっている、望月の家の方と辻先生に相談してもいいですか？」
「もちろん。ああ、富田編集長、私のわがままな夕飯にお誘いして申し訳ない。」

富田編集長は箸を置くと
「いえいえ、私も同じ考えです。櫻さんがこちらの養女になれたら本当にいいと思うんです。」

櫻は泣いてしまった。こんなにいい人が自分の周りを囲んでくれるこのことに。

おいおいと泣く櫻を2人は優しく諭したのだった。