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第十章 冬休み 旅行に出る

3、着丼

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暖簾をくぐった2人は、寒い外からということと、店に漂う味噌の匂いでなんとも言えない幸せな気持ちになった。

「こちらへどうぞー」
2階の座敷へ案内された。

「なあ、もう直ぐ、雪が降りそうな天気になってきたね。」
望月がはしゃいでいる。
「ああ、冬はこれがなくちゃな。」

注文をとって、のんびりと外を見ていた。
すると、14時前のこの時間、チラチラと雪が降ってきたのだ。
「わあ、辻くん、降ってきたよ。」
「いいタイミングだね。」

すると、大きな鍋に入った味噌煮込みうどんが2人の前に置かれた。
「お待たせしました」

湯気がたちのぼる。
2人はこたつの席にいたが、寒さはあった。
「さあ、早く食おう。」

ハフハフ言いながら口に運ぶと、それはなんとも言えない美味しい味だった。
「なあ、なんで味噌って地方によって違うんだろうね。」
「どうして?」
「だってさ、群馬の方じゃ、もっと白いよ。でも、これは赤味噌っていうだろ。どっちも美味しいけどね。」

そう言われればそうだ。辻の女中は気を遣ってか、白と赤を半々でとして夕食の味噌汁を作っている。
各地にいろいろな味噌があるのは分かっていたが、そのことに目を向けたことはなかった。

「鍋にさ、うどんが入ってるとすごく豪勢に見えるよね。」
「鍋焼きもうまいしな。」
「僕さ、アグリに昔、鍋焼き作ってって言ったらさ、すき焼きになっちゃったことあったんだよ。」
「アグリさん、鍋焼き知らなかったのかい?」
「うん。うちの家に嫁ぐ前は結構、質素な暮らししていたからね。だから、僕が初めて洋食つ食った時も本当に喜んでさ。」
「アグリさんが本当に素直なお嫁さんでよかったな。」
「最初は手がつけられない、暴れん坊だったよ。」
「暴れん坊?」
「そう。まあ、僕の手にかかれば。」
「君が今は操作されている。」
「もう!辻くん!」

こんなやりとりで、僕らは幸せだ。
名古屋観光はゆっくりしながら、どこで宿を取ろうかなんて相談した。
「ねえ、さっきお姉さんに聞いたんだけど、犬山城のあたりにも温泉あるらしいよ。」
「犬山、いいねえ。歴史ある街だしね。」

ということで、味噌煮込みうどんの後は、2人で電車に揺られながら犬山を目指すことにした。
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