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第十章 冬休み 旅行に出る

5、鵜飼を見る

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夕飯は鵜飼を見てその後、部屋出しということだった。

辻は暗くなった川に放たれた鵜が魚を取る様を見てなんともない気持ちになった。
魚を捕らえても、喉を通過できない。だから、人間に吐き出したものを取られる。

それは、自分の手に入った女性が、急に出てきた人物に取られる様に似ていた。

自分は今まで数人と同時に付き合ったり、女性もとったり取られたりに対してあまりこだわりは持っていなかった。しかし、それは櫻と出会ったことで変わってしまった。

もし、櫻が心惹かれる誰かと急に出会ったらどうしたりいいだろうと考えてしまう。
成長する彼女を見るのが嬉しいが、自分の手から離れてしまいそうでそれを不安に思っていた。

「ねえ、辻くんどうしたの?」
「ああ、なんだか鵜飼と恋愛を重ねてみてしまってね。」
「君は櫻くんのこととなるともういつでも不安症だね。」
「不安にもなるさ。」
「でもさ、自由は縛れないって言ったのは君だよ。」


ああ、その通りである。

「僕は変わってしまったのだろうか。」
「いや、君は君のままだよ。辻くんのままだ。」
「何がこんなにモヤモヤさせるのかね。」
「辻くん、僕だってこの間小説が書けなくて悩み抜いたんだよ。」
「うん。」
「そしたらね、櫻君がアイデアをくれたんだ。」
「アイデア?」
「うん、内容は掲載まで秘密だから、詳しくは言えないけどね。でも、櫻くんは本当に君のことを思ってるよ。」

本当に不思議な女性だ。人を沼から助け出したり。

「あ、もう、すぐに櫻くんのこと考えてたでしょ。」
「ああ、うん。」
「旅行に来てるんだから、ね。悩んだら、心の櫻くんに話せばいいじゃない?」
「そうだな。」

最近、養女にすることに奔走していたから、そのことを忘れていた。

そんな考えを巡らせていたら、鵜飼は終わっていた。

夕食は豪勢で、食のおいしさを感じた。

布団が敷かれ、2人は眠りにつこうとした。

スースーと望月はすぐにねた。

辻は櫻を呼び出そうと思った。

「先生?」
「あ、櫻くんか?」
「私を呼び出すの、久しぶりね。」
「ああ、忘れてはいなかったけど。」
「私、あなたのおかげで自由よ。あなたは私の半分。」
「半分?」
「あなたがいるから、将来私はあなたとの子供を持つことができる。」
「そうか、子供か。」
「きっと、可愛いわ。だからカラクリ研究みたいに未来を夢見て。」
「ああ、わかった。」

スウっと櫻の存在が心の中から消えた。
ああ、櫻のことを思うと自分が恋に駆られていると思う。しかし、心の中の櫻と話せて安心した辻だった。
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