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第十章 冬休み 旅行に出る

14、令嬢の選択

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望月はあの話を短編として書いた。

「令嬢の選択 望月ヨウスケ

山手の瀟洒な洋館にすむ、ミツコ。女学校を出てから、職業に就かず、花嫁修行をしていた。
花嫁修行といっても、着付けやお花お茶、特に面白いものはなかった。

しかし、友人がある時パーティに誘ってくれた。
そこのパーティにある社長が来ていた。

彼は会社を経営しているが、2世のためまだまだ若かった。
2人はすぐに惹かれあった。

「ねえ、私のどこが好きなの?」
「恐れないところ。」
「どういうこと?」
「だって、僕みたいな男に迫ってくるなんてね。」
「あなたは魅力的よ。」

2人が交渉をもつことに関してはすぐに起きた。
しかし、それは2人が2人の関係に溺れていくことでもあった。
ひみつの部屋は2人の合挽場所となった。

「ねえ、お父様にバレたらどうしましょう。」
「そうだね、プロポーズしようか?」
「でも、私、婚約しそうなの。」
「では、全力で阻止しよう。」

実は、男の職業はミツコの父のライバル会社であった。
合併ならいいことだが、そういう時代ではなかった。

ある時、ミツコは自分の体の変化に気がついた。
「ねえ、なんだか熱っぽいの。」
「季節外れの風邪かな?」
「なんだか眠いのも続くし。」

男はその時気がついてしまった。彼女が妊娠していることに。
「多分、それは妊娠だ。」
「では、プロポーズしてくれる?」
「いや、難しい。」
「じゃあ、別れましょう。」
「え?そんな突然。」
「そういうつもりでしょ。いいの。」

そういって、2人は別れた。
しかし、ミツコはそういうわけには行かなかった。
家で妊娠を打ち明けたら、堕ろせという話になったのだ。
相手のことは言わない。

そのうち、出て行けと言われた。兄弟がいたから、私は用済みなのだとミツコは思った。

でも、愛した人の子供がいることが幸せだった。
名古屋に引っ越した。

ある時、男から手紙がやってきた。
子供のこと、嬉しいと。
それだけでミツコは十分だった。
そして、新たな夢を見つけた。
絵を描いていくことに。そして、外国にいくことに。
芸術は誰も変えられない。
子供も芸術だ。これからの未来、何かあるかもしれない。
しかし、ミツコは期待の中にいるのであった。」

この作品はあの出来事があってから2ヶ月後に掲載された。
多分、出産したあたりである。
この作品が彼女に届くことを望月は期待した。
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