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第十二章 新学期

8、図書館からの風景

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櫻は図書委員の当番になっていた。

朝に辻と過ごした時間を思い出しては幸せな気分になっていた。

図書館というのは本当に宝の山だと思う。
女学校に入る前はこんなところがあるとは知らなかったので、始めて女学校の中に入った時この図書館が心を震わせた。

図書委員の仕事は放課後に図書を借りにくる人に貸出をする手続きをする。

係極めの時に櫻は真っ先に図書委員を立候補した。
基本的に女学生が図書館に来ることはあまりなかった。

理由としてはほしい本はほとんどの生徒は買えるくらいお金持ちだ。
それと、ここに置いてあるのは少し古い本が多いのだった。

櫻は英語の本を読むのが好きだったが、この図書館で江戸時代の本などもあったので、とても興味深かった。

「あの」
「あ、どうしました?」
「図書委員さんに聞きたいんですけど。」
「はい、どうしましたか?」
「私、里見八犬伝探してて。」
「ああ、それなら奥の江戸のコーナーにあります。持ってきましょうか?」
「一緒に来てもらっていいですか?」
「いいですよ。」

どうやら、一年生のようだった。
「どうして里見八犬伝を?」
「私のいとこが読んだら、とっても面白かったって。」
「私もお勧めですよ。」
「そうなんですか?」
「金手本忠臣蔵とかもおすすめかな。」
「図書委員さん、色々ご存知なんですね。」
「図書いいんですからね。」
「でも、先週来た時の委員さんはわからないって言ってたから。」
「私、本が好きだから。」
「図書委員さんみたいに本のこと、いっぱいわかる図書委員になりたいな。」
「そんな。そう言ってくれると嬉しいです。」
「他にもお勧めありますか?」
「私はシャーロックホームズっていう英国ミステリーが好きです。」
「ミステリーって?」
「ああ、推理物ですよ。」
「難しくないですか?」
「最近は訳本もあるから。英国に行ける感じがして本当にいいです。」

今日の図書委員は櫻にとって嬉しかった。
本好きの人と関われたからだ。でも、前の自分だったらこんなことしなかったかもしれない。
この一年生が返却の時にまた係りになったらいいなと思う櫻であった。
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