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第十三章 養女になる準備

4、さあ、出発です

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アグリとの旅行の日になった。
櫻はワクワクしすぎて、あまりよく眠れなかった。

「おはよう。」
リビングに行くと、支度中のアグリがいた。
「先生、もうお着替えなさって。」
「ああ、私せっかちだから。家を出るのは11時だから大丈夫よ。」
「一瞬、焦りました。」
「ごめんごめん。淳にも怒られた。」
「淳くんに?」
「お母さん、張り切りすぎってね。」

その言葉が嬉しかった。私だけではなく、アグリも楽しみに旅行に臨んでくれている。

「先生、私も荷物まとめて着替えてきます。」
「急がなくていいのよー。」

櫻は部屋に戻ると、下着類を風呂敷に包み、小さなカバンに少々の荷物と万年筆とノートを入れた。
着替えて、リビングへ行った。

「あら、急がなくてよかったのに。」
「私の支度は簡単なので。」
「ああ。あなたはまだ女学生だからお化粧品とかいらないのよね。若いって羨ましいわ。」
「先生だって、お化粧しなくたって十分綺麗です。」
「そんな、図に乗るわよ。ははは。でも、お化粧始めたら、しないと恥ずかしくて人前に出られなくなってしまったのね。」
「私も上手になりたいです。」
「若い時は若い時なりの美しさを楽しむことが重要よ。あなたの美しさはお化粧をしないことで発揮されてるわ。」
「恐縮です。」
「ううん。まあ、私もあなたの時期にはお化粧に憧れたものよ。」
「しなかったんですか?」
「修行で忙しくてね。自分のことなんて後回し。」
「先生の過去の話を聞けば聞くほどすごいなって思います。」
「私が選んだ道だからいいのよ。」
「そうですか?」
「私は過去に何も恥ずべきものはないと言ったら嘘になるけどね。」
「先生にも恥ずかしい過去があるんですか?」
「そんなの毎日よ。今日だって、ウキウキしてよく眠れなかったし。」
「え!先生もですか?」
「あら、櫻さんもよく眠れなかったの?」
「はい。全然。」
「私たち、本当に似たもの同士ね。」
「嬉しいです。」
「じゃあ、温泉入って、美味しいもの食べたら、爆睡ね。」
「旅館に泊まるの、楽しみです。」
「4人でゆっくりしましょ。」

櫻ははやる気持ちを抑えられなかった。すぐに出発になるのだが、それまでドキドキが止まらなかった。
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