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第十三章 養女になる準備

15、光太郎からの質問

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しばらくアグリと光太郎の歓談は続いた。

「お父様、今日東京に帰るからあと30分くらいでお暇します。」
「ああ、泊まっていかんのかの?」
「淳之介も受験生ですから。」
「そうか。」

ふと、光太郎は考え込むような表情をした。
そして、櫻に声をかけた。
「江藤さんと言ったかの。」
「はい。」
「淳之介の勉強はいかがなものかな」
「大変できはいいですよ。でも、緊張しやすいことが弱点かもしれませんね。」
「ああ、わしに似てしまったのかの。」
「社長さんも緊張しやすいんですか?」
「ああ、わしはそれで中学を落ちていかなかった。だからヨウスケに東京に行かせてしまったんだがな。」
「そうだったんですね。」
「淳之介、じいちゃんみたいに中学に行かなくたって会社を経営できるんだから学校が全てだと思うなよ。」

「えー。僕、大学に立って行きたいよ。」
「そんなこと言うな。お前にはここにきてもらいたいんだよ。」
「勇蔵おじさんが来ればいいじゃないか。」

ふと、櫻は淳之介を睨みつけた。
すると、淳之介は櫻から言われたことを思い出した。
「ああ、でもおじいちゃん、土建屋さんも素敵だね。いい会社だよ。」
「そうじゃろ。お前もわかってきたじゃないか。」
「おじいちゃんのゆめってなに?」
「そりゃ、お前たちにこの会社と家を残して、幸せに暮らして欲しいんじゃ。」
「おじいちゃんの幸せはおじいちゃん自身じゃないの?」
「俺はもう、好き勝手に生きてきた。だから、これからはみんなと幸せに穏やかな生活をしたい。」
「そう言うことなのかあ。」

淳之介も分かったようだった。
家族が離れ離れになると言うのは不幸なことだ。それは分かっている。
でも望月家のように思い合っている人同士のちょっとしたかけ違いと、櫻の実家のこととは全然違う気がした。

「じゃあさ、おじいちゃんが驚くような会社にしてもいい?」
「どう言うことじゃ?」
「未来の家とか大きなビルディングとかさ。」
「ああ、お前の好きにすりゃいい。」

どうやら光太郎は心底、家族思いなんだと櫻は思った。
そして、別れの時間が近づいた。

「アグリ」
「はい、お父様」
「トモヨによろしく頼む。」
そう言って、小さな箱を渡した。
「これは?」
「トモヨに渡してくれればええんじゃ。」

そのあと、トモヨと合流してそのものが何かということを3人は知ることになる。

ということで、3人は望月組を後にした。
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