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第十三章 養女になる準備

14、光太郎の思い

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望月組につくと、会社の前でアグリの舅、光太郎が待っていた。

「お父様、お久しぶりです。」
「おお、アグリに淳之介、本当久しぶりじゃの。」
「おじいちゃん、こんにちわ。」
「おお、お前はよくできた子供じゃの。」

嬉しそうにしている光太郎を見て、櫻はいい家にアグリは嫁いだのだと感じた。

「あ、そこの方はなんじゃの?」
「お父様、言ったじゃないですか。うちでお世話してるお嬢さんで、櫻さんです。」
「女中さんじゃないのか?」
「違いますよ。女学生です。淳之介の勉強も見てもらってるんですよ。」
「そりゃあ、出来がいいかたじゃ、よろしく。」
「あ、すみません、ご挨拶が遅くて。江藤櫻です。よろしくお願いします。」

3人は望月組の応接間に通された。
「大きな会社ですね。」
「そうね。群馬では有数よ。」
「そりゃ、東京の家もすぐ買えちゃいますね。」
「そう。あの家、父が投資で買った家なの。」
「え?そうなんですか?」
「父は仕事に関しては失敗がない人でね。」

しばらくすると、女中がお茶菓子とお茶が運ばれてきた。
「アグリお嬢様、お偉くなって。」
「あら、しおさん、まだまだお若っくて。」

アグリはこの家の隅々を知っているようだった。

「おお、遅くなってごめんのう。急な電話が入っての。」
光太郎がやってきた。
「どうじゃ、淳之介、勉強は捗っとるか?」
「うーん。わかんない。」
「それじゃダメじゃろ。」
「えー?」
「頭がいいだけじゃダメだが、勉強ができておいて悪いことはない。」
「でも、お父さん、頭いいよ。」
「あいつは、別じゃ。」

どうやら、光太郎は望月のことをあまりよく思っていないようだった。

「お父様、私、今二人めで」
「おう、聞いたわ。今度も男の子がいいのう。」
「どっちでもいいじゃないですか。」
「いや、望月組の跡取りは何人いてもいいもんじゃ。」

横に座っていた淳之介が小さな声で櫻に囁いてきた。
「ね?おじいちゃん、後継うるさいでしょ。」
「でも、こんなに大きい会社だったらそう思うでしょうね。」
「でもさ、櫻先生が言うから、僕今日はあまり強く言わないよ。」
「そうした方が良さそうです。新しい兄弟の話をたくさんしましょう。」

「アグリ、お前、妊娠してた時、たくさん食べてたものあったじゃろ。」
「ああ、枇杷ですね。」
「季節じゃないんじゃな。残念じゃ。あげられなくて。」
「いいんですよ、お父様。私元気なお父様に会えることが楽しみで。」
「早く、赤子が見たいのう。」
「東京にもいらしてください。」
「いや、でも。」
「お母さんももう少しお父さんが近づいてくれれば、いつか機嫌が良くなりますよ。」
「もう、10年になるのにのう。」

夫婦の形は千差万別だと再認識した。そして、歓談は続いた。
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