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第十三章 養女になる準備

13、望月組

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望月組がある街は、群馬でも中心の前橋であった。

駅に着くなり、トモヨは3人に別れを告げ、帰る際に、百貨店のレストランに来てくれと言った。

「さあ、行きましょう。」
アグリが櫻に声をかけた。
「どうやって行くんですか?」
「ああ、番頭の磯部さんが来てくれるはずなんだけど。」

駅を出ると、初老の男性が大きく手を振っていた。
「アグリお嬢様ー!」
「磯部さん、お久しぶり。」
「まあ、淳之介坊ちゃんもヨウスケ坊ちゃんにそっくりになって。。。」
「前に話したけど、今家族同然で家に住んでもらってる櫻さんにも来てもらったの。」
「女中さんですか?」
「ううん。妹みたいなものよ。」
「ああ、アグリお嬢様はよくわからんの。」

まあ、この状態は異常だし、磯部がそう言う気持ちも櫻はわかった。

3人は早速車の後部座席に座って、望月組へと向かった。

「アグリお嬢様、お子様の方はどうなんじゃの?」
「今は、順調よ。」
「順調って言っても女中もおらんじゃろ?」
「女中じゃないっていたけどね、この櫻さんがとても頼りになるから色々してもらってるのよ。」
「そりゃあ。何をなさってるかたかね?」
「女学生なの。」
「アグリお嬢様を思い出しますね。」
「そう。私が望月の家に来た時とほとんど同じ。」

磯部とアグリの話は盛り上がっていた。

「ねえ、櫻先生。」
「どうしたんですか?淳之介さん?」
「ぼくさ、おじいちゃん好きだけど、僕のこと、継がせようとしてるのがちょっと苦手なんだ。」
「あら、土建屋さんだって素晴らしい仕事じゃないですか。」
「僕は、お父さんみたく物書きになりたいんだ。」
「そうですね。夢は自分のものにしたいですよね。」
「わかるだろ?先生も出版社で働いてるもんね。」
「そうですね。淳之介さんなら文豪もメジャないかもしれないかもですね。」
「文豪って?」
「物書きの大金持ちで、素晴らしい文章を書く人ですよ。」
「お父さんは大金持ちじゃないけど、いい作品を書くって編集者の人が言ってたよ。」
「ああ、望月さんの作品は大人向けですからね。」
「僕ね、難しくなってもいいから、人に伝わるものを描けるようになりたい。」
「じゃあ、ちゃんとお祖父さんには失礼の内容にしなければですね。」
「どうして?」
「いま、大きく拒絶をすると言うのはお祖父様の夢を壊すかもしれないからですよ。」
「うーん、わからないな。」

淳之介は大人を傷つけることに関しては無頓着のようだった。
もちろん、この前まで櫻もそうだった。辻と出会うまでは。
と言うことで、望月組についたのであった。
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