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第十三章 養女になる準備

26、ノア先生との授業2

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まだまだ話は続きます。

「あの、先生に聞いてもいいですか?」
「はい。」
「ノア先生のノアって、あの聖書の?」
「そうです。ノアの方舟からです。」
「どういう意味でつけられたのか聞いていいですか?」
「はい。答えられます。でも、今はすぐ話しません。」
「え?どうして?」
「あなたにちゃんと聖書を読んでから話したいからです。」
「聖書を?」
「そう。あなたはちゃんと読んだことはありますか?」
「いいえ。私の通っている学校はカトリックではありませんし、キリスト教のこともあまり知りません。」
「では南無阿弥陀仏はよくご存知で?」
「ノア先生、よく南無阿弥陀仏なんて。」
「私の夫は南無阿弥陀仏よく言います。」
「私、あまりお寺にも行ってなくて南無阿弥陀仏の意味も知りません。」
「日本では宗教が形式的になっていますからね。心の拠り所にしている人は少ないかもしれません。」
「先生はキリスト教のままですか?」
「そうです。私はお寺にも行きますが、基本的にキリスト教の教えから離れるつもりはありません。」
「ご主人と揉めたりしませんか?」
「はい。揉めません。」
「どうして?」
「お互いに信じている信念が違っても、思い合ってるからです。」
「だから、南無阿弥陀仏を理解して。」
「そう。私は少し仏教について調べました。そして、南無阿弥陀仏の先に必ず極楽浄土に行けると知りました。」
「そこまで調べて。」
「全然です。夫は両親を亡くしています。月命日には必ず、お墓に行きます。彼なりのミサのようなものと捉えました。しかし、それは私なりの理解かもしれません。」
「ノア先生はすごいですね。」
「櫻さんは自分で英語を勉強したとジュンから聞きました。」
「え?」
「ああ、私たちの仲間の中ではジュンと呼ばれてます。」
「辻先生、外国ではそう呼ばれてたんですね。」
「あなたはとても彼といい。だから、あなたに日本にいて外国を知ってほしい。ノアはそう思います。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
「ピアノもイタリア語もノアとのおしゃべりも全部身になりますよ。」
「はい。頑張ります。」

ノア先生の真心に触れた気がした櫻であった。
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