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第十四章 望月家からの旅立ち

1、アグリと辻の会話

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辻はたまたま授業が入ってなかったので、望月家に昼前にいた。

目的はアグリに会いにきていたのだ。

「ああ、お腹の大きな君もいいもんだね。」
「辻さんくらいよ。うちの人なんて、職業婦人ばっかり書いてるでしょ。だから私はモデルにならないの。」
「そう思い込んでるのはアグリくんだけだよ。あいつは君の作品の時はとても慎重だよ。」
「そうなの?」
「うん。どうやったらリアルに書けるかってね。」
「知らなかった。」
「夫婦でもそう言うもんなんだな。」
「辻さんは恋人しか経験ないものね。」
「ああ、でも僕らしくないけど、結婚願望が強いよ。」
「そう、櫻さんね。」
「うん。」
「もう少しでお別れだと思うと、ちょっと落ち込むわ。」
「君に櫻くんを預けて本当に良かったと思う。」
「ううん。それは私の方。」
「そう思ってくれるかい?」
「うん。辻さんは私の生きる境目で必ず幸運を持ってきてくれるサンタクロースみたいな人ね。」
「そこまで褒められると、何をしていいのかな?」

うーん。とアグリは考えた。
迷ってる姿を見て、辻が口を開いた。
「ねえ、アグリくん。」
「はい。」
「君にね、このうちで結納ようなことをして欲しいんだ。」
「え?」
「もちろん、今回は養女に行くのだから、パーティーでもいいと思ったんだけど、佐藤支店長をよんで、きちんと区切りをつける儀式をしてはどうかとね。」
「それってどんな?」
「ダイニングでもいい。望月家と、佐藤支店長と坂本と僕が櫻くんをスムーズに佐藤家に行けるような儀式めいたことをしたいんだ。」
「でも、今までそんなことしたことないわ。」
「うん。だから、形式でいいんだ。鯛なんて用意しなくていい。望月家らしい洋食でもいい。望月の家からうまく旅立てるように、会食をしたいんだ。」
「そうね。わかった。ヨウスケさんにも手伝ってもらって準備するわ。」
「苦労をかけるね。」
「ううん。私、自分の心にも区切りをつけたいと思っていたの。だから、私自身にもいいかなって。」

アグリは泣くような表情で笑った。
別れは徐々に近づいていた。
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