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第十五章 佐藤櫻として

13、本を読んでみて

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お昼ご飯を女中3人ととったあと、櫻はまた書斎に行って、政治の本を読んでいた。

そもそも政治とは何かということを自分は知らず、読みながら分からないこともあった。

国を動かすもの。そこで決まったことが法律になること。
それがわかってきた。

しかし、それを決めているのは一部の上流階級の者たちだ。
下級の者たちは意見も聞いてもらえない。
その上で成り立った法律で日本は動いている。

櫻は読みながら少し、憤りのようなものを感じた。

「櫻お嬢様」
スエがドアを開いた。

「あ、スエさん。」
「随分とご熱心だから、もう夕方ですよ。」
「ああ、ちょっと夢中になってしまいました。」
「ご主人様の本、そんなに魅力的でした?」
「ああ、私の知らないことの分野の本がたくさんあって。」
「たとえば?」
「今は政治の本を読んでます。」
「あら」
「どうしたんですか?」
「前のお嬢様もお好きだったんですよ。」
「え?」
「女性も社会進出だなんておっしゃってね。いつか立候補したいなんておっしゃってました。」
「でも、女性は。」
「そう、女性はいませんね。」
「スエさんは政治に詳しいんですか?」
「いえいえ。ちょっとお話しできる程度です。ご主人様のおお客様も政治家の方もいらっしゃいますから、新聞を読んでいるだけです。」
「え?スエさん、新聞読まれてるんですか?」
「ええ。ここの女中は3人とも読んでますよ。」
「驚きました。」
「どうして?」
「私が今までいた家では女中や弟子で新聞を読んでる人はいなかったので。」
「そうですね。ひらがなしか読めない人も多いですからね。」
「でも、どうして?」
「ご主人様が昔言われたんですよ。」
「何をですか?」
「スエはもう20年こちらで勤めてますが、女性だからしちゃいけないとかそういうのは無しにしようと。」
「お父さんが。。」
「ご主人様のこと、見直しました?」
「見直すも何も、本当に素晴らしい人なんだと、改めて思いました。」
「それはよかったです。お慶びになるでしょう。あ、そうそう。今日はご主人様会合で、お夕飯はお家でお召し上がらないと言われてましたので、お夕食はどうなさいますか?」
「どうって?」
「お一人で?それとも私共と?」
「一人はちょっと。。。」
「では、4人で食べましょう。」

そう言って、スエは出来上がったらまた知らせに来てくれると言った。
父の素晴らしい部分を知ることができて、櫻はまた感動した。
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