上 下
290 / 416
第十六章 最終学年

11、父への報告

しおりを挟む
家に帰ると、19時ごろに父が帰るからその頃夕食にしましょうと言われた。

さすが時間ぴったりで、父は19時ごろに帰ってきた。

「やあ、櫻まっててくれたのかい?」
「はい、おしゃべりもしたくて。」
「じゃあ、すぐに着替えてくるよ。」

父はすぐにダイニングに戻ってきた。

「いいね、おしゃべりのある夕食は。」
「はい。」
「そうだ、僕の名前について櫻にはきちんと話していなかったね。」
「ああ、そうでした。」
「興味なかった?」
「いえ、自分のことで手一杯で。」
「そうだね。櫻自身が苗字が変わったんだしね。」
「ところで、お父さん、お名前の件て?」
「そう、僕の名前は佐藤政誠実というんだ。」
「まさみち、ってどんな漢字ですか?」
「笑ってしまうんだけどね、誠実って書くんだよ。」
「え?」
「誠に実でまさみちなんだ。」
「素敵なお名前ですね。」
「本当?」
「はい。」
「僕はね、名前負けしてるんじゃないかっていつも恥ずかしったよ。」
「全然!お父さんは、とても誠実な方です。」
「名前が僕を引っ張ったのかもしれないと思うよ。名前らしく生きなくてはってね。」
「そうですね。私も本当はサクだったのに、自分で櫻にしてしまいました。」
「櫻は十分、花開いてるよ。まだ5分咲きくらいかな?」
「5分咲き?」
「そう。今、世間では桜が満開だろ。櫻はきっともっと大成するよ。」
「努力しなきゃですね。名前負けしないように。」
「そう。名前が後押ししてくれる。」

ふと会話の途中で、壁にヤモリがいることに気がついた。
「お父さん、ヤモリ、が。」
「ああ、いいよ。この家にもきてくれるようになったんだね。」
「え?」
「ヤモリは家に幸運をもたらしてくれるんだよ。」
「え?そうなんですか?」
「そう。だから、勝手に追いやったり殺したりしたらダメだんだ。」
「以前にもヤモリが来たんですか?」
「ああ、もう5年も経つけどね。」
「じゃあ、久しぶりの再会ですね。」
「うん、櫻が来てくれてそれで来てくれたんだね。」
「私がくる前から、ずっといたんですよ。きっと。女中さんたちもとっても素敵だし。」
「そうだね。ずっといてくれて、今日再開したのかもしれない。」
「そうですよ。」
「うん、そうだね。」


夜の来訪者がこれからの櫻を後押しすることは、この時の櫻はまだ知らない。
しおりを挟む

処理中です...