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第十六章 最終学年

45、館山をあとに

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花火の翌日、櫻は和枝とリビングでゆったりとした朝食をとった。


「あの、お姉さまは大丈夫なの?」
「ああ、お姉さまは今朝早く帰られたわ。」
「でも、赤ん坊、さっき見かけたわ。」
「うん。お姉さまね、子育てに無頓着なのよ。」
「え?」
「まあ、そういう人もいるんじゃない?」

和枝は気にしていないように表現した。
しかし、櫻はお金も持ってて女中もいるのに、子供を置いて東京に帰る心境がわからなかった。

「もし、お姉さまが思いの方と一緒になってたらって思おうことはあるわよ。」
「それって。」
「うん。駆け落ち寸前まで行った方ね。」
「でも、しなかった。」
「そう。ある意味正解だけど、お姉さまの人生は止まったのかもしれない。」
「私ね、自分の子供ってまだ持ったことがないけど。」
「そりゃ、女学生なら。」
「でも、もし生まれたら、自分らしく子育てしたい。」
「でも櫻さん、職業婦人はどうするの?」
「働きながら。。。」
「でも、お父様、反対なさるんじゃな~い?」
「え?」
「だって、佐藤さんのお宅からお嫁に行くとしたらそれなりの家でしょ。それか婿取りになるし。」
「私、お姉さんが駆け落ちしたかった気持ち、なんとなくわかる。」
「櫻さん、どういうこと?」
「こんなに大きなお家だと自由が効かないでしょ。」
「それはそうね。」
「だから、それを受け入れていくって難しかったんじゃないかしら?」
「うーん。でも、お姉さまは結局婿取りを選択したんだし、それを今更ね。」
「そうかあ。」
「でも、櫻さんがうちの長女だったら出奔しちゃうかもね。」

櫻は絶句してしまった。実際そうなのだ。実家から飛び出した。


「う、うん。そうね。」
「私、ぬくぬく育ったし、あまり疑問とかないのよね。」
「でも、和枝さんは差別がない方だわ。」
「それは、櫻さんだからよ。あなただから。」
「ありがとう。」
「ううん、ちらこそ。」

そして、二人は帰りの荷造りをし、運転手が待つ車へ乗った。

「じゃあ、東京へ帰るとしましょうか。」
「なんだか、館山にいたことを考えると、帰るのが惜しいわね。」
「そう言ってもらえると、誘った甲斐があるわ。」

二人は房総の景色を堪能しながら東京へと向かった。田舎道が続いたが、それもこの夏の思い出。
櫻はとてもいい体験をしたと感じていた。
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