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第十六章 最終学年

66、3人のランチ

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辻と軽く話した後はダイニングで昼食を3人でとった。


「坊っちゃまも夏休みというのに、研究がお忙しのが続いていると桜から気いてました。」
「そうだね。この間、佐藤支店長を誘って夕飯を食べたのが束の間の休みって感じだね。」
2人はアルコールをとっていた。

「櫻、これはウイスキーというんだよ。」
「ウイスキー?」
「そう。イギリスのは格別だよ。」
「ぜひ行ってみたいです。」
「私も老耄になる前に娘と一緒に海外を行きたいね。」
「お父さんはまだ老耄なんかじゃないです。」
「おやおや。でもね、長女の由美子はアメリカにいるし、手紙で櫻のことを書いたらぜひ会いたいと書いていたよ。」
「由美子さんが?」
「そう。坊ちゃんとは幼馴染でね。」

うんうんと辻は笑っている。
「先生は由美子さんとは恋仲にはならなかったんですか?」
「それを佐藤支店長の前で聞くかな?」
「え?」
「櫻はさすがだね。」
「何がですか?」
「まあ、置いておいて。そうだね。一個違いだから、よく喧嘩もしたし、しゃべったよ。でもそれは兄弟に近いものがあったからね。一部の社内の人間は佐藤支店長が長女を嫁がせて昇進を狙ってるなんて言われたんだよね。」

父が笑った。
「そうですね。私は坊ちゃんのことを姉が面倒見ていたのもあって、よくこの家にもきてもらっていて。だから、やっかんだ者にそう言われてました。」
「お父さんは嫌な気持ちにならなかったんですか?」
「いや、そうなってもいいし、そうならなくてもいいと思ったよ。」
「え?」
「まあ、風まかせって思ってたかな。そしたら長女自身が外国に強い人と見合いしたいなんていうから、駐在さんとお見合いしたらさっと嫁いでしまったよ。」
「そんなことが。」
「もしかしたらね。長女はとても真面目だったから、坊ちゃんが外遊に行ったりするのが羨ましかったんじゃないかな。」
「じゃあ、師範に。。」
「うーん。由美子はそう言うのじゃなくてね。上手くはいえないけど。」

困った顔をした佐藤支店長を助けるかのように、辻が口を開いた。
「実はね、僕は由美子から相談を受けたんだ。」
「え?」
「櫻くんは聞いても安心な話だよ。由美子は出張に行くたびにイキイキした父親の姿をみて、外国に出てみたいと思うといったんだ。」
「それで、先生はなんと言ったんですか?」
「自力で勉強するか、外国に行く人と結婚するのが簡単だと言ったんだ。」
「無責任。。」
「いや、見合いで会ってみて合わなければ断れればいいとも言ったんだよ。だから、僕は由美子が19で外国に行ってしまうなんて思ってなかった。」

辻と父は顔を見合わせた。辻は肩をすくませた。
これは佐藤家ではよくある話のようだった。

「私、先生を利用して外国なんて考えてませんからね。」
「わかってるよ。君が自分の力を思っていることは。」

まあまあ、と佐藤支店長が言って事を収めた。
この日の昼食はまだまだ暑い日だったので、冷静パスタだった。
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