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第十六章 最終学年

85、和枝の事

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翌日学校に登校すると、和枝がすぐに櫻に寄ってきて昨日の出来事を話し始めた。

「あのね、櫻さん。」
「どうしたの?和枝さん?」
「昨日、教室でちょっと放課後お友達とお話しとかして暇つぶししてたの。」
「あら、図書館に行ってごめんなさいね、。」
「ううん。それはいいの。その後ね、若葉先生が来て。」
「若葉先生が?」
「今日、時間があったら、私と進路の面談できないかって。」
「え?」
「それでね、まあ時間も別にあったから、進路指導室に行ったのよ。」
「それで?」
「うん。将来のことどうだって?」
「どう答えたの?」
「結婚でも、職業婦人でもあまり深く考えてないって答えたの。」
「そしたらなんて?」
「若葉先生は見合いはしてるのかって。」
「え?」
「若葉先生、私のこと好きなのかなって思って、先生に先生でもいいですよって言ったの。」
「びっくりした。」
「あらそう?年頃も見栄えもいいし。」
「まあ辻先生は競争率高そうだしね。お見合いで会う人もこれっていうのもないし。」
「それで若葉先生は?」
「僕は婿じゃなかったら遠慮しますだって。」
「どういうこと?」
「若葉先生は婿入りじゃないとダメなんだって。」
「どうしてかしら。」
「そうよね。だって、早稲田も出てるし、結構いいお家の出だと思うし。」

それを聞いた時、改めて、若葉がいい家に婿に入ることをターゲットにしていることを知った。

「でね、私のことじゃなくて、櫻さんのこと聞くのよ。」
「え?私のこと?」
「家に遊びに行ったことあるかとか。」
「それで?」
「うん。夏休みに迎えに行った時家に行ったこと言ったわ。」
「若葉先生はなんて?」
「ああ、辻百貨店のって。」

ああ、若葉は本当の意味では櫻のことは知らなかったのだ。
辻がそこをちゃんと守ってくれていたのだ。
でも、和枝も悪気があって言った事ではない。

「でも、面白くなかったわ。」
「え?」
「若葉先生、櫻さんにお熱かもよ?」
「そんなことはないわよ。」
「どうして?」
「だって、私婿取りしようと思ってないし。」
「櫻さん、お嫁に行きたいの?」
「うん。いずれは。」
「佐藤の家、どうするの?」
「佐藤の家とは切れないようにしたいとも思ってる。」
「家の問題は結構難しいわよ。私のお姉様の一件もあるし。」
「そうね。でも、若葉先生とは一緒にはならないわ。」
「それもそうね。もし婿取りでも、商売に関係のある人じゃないと百貨店がね。」
「うーん。今はまだ師範の勉強があるし。」
「お見合い合戦がないだけうらやましい。」
「そうなの?」
「まあ、いずれやってくるわよ。」

そう言って、笑い話で終わった。
しかし、櫻はどうしても、若葉の思惑が自分に向いていることを確信し、早く辻に伝えなくてはと思った。
でも、坂本や辻に接触するには危険すぎる。ここは父の力を借りて、辻に連絡をとってもらうことにしようと櫻は考えた。
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