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第十六章 最終学年

91、見合いの続き

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「和枝さんは見合いは慣れているようだね?」
「近田さんだって。」
「僕は2回目だよ。」
「なら。」
「ま、前は僕の変人ぶりで振られましてね。」
「変人じゃないですよ。」
「和枝さんは多分、いい友人を持っていますね。」
「どうして?」
「人を区別しないからですよ。」


和枝がよりその思想を強めたのは櫻との出会いだった。
そして夏休みを過ごしたことだった。
「私、親友がおりまして。」
「いいですね。親友。」
「彼女は何でもないことでも感動してくれて。素敵な人です。」
「友人を褒められることはいいことです。」
「近田さんには?」
「残念ながら。」
「今までずっと?」
「いえ、尋常小学校の頃、おりました。」
「その方とは?」
「外国に行くことになって、離れ離れです。一緒に野球なんてして。」
「ハイカラですね。」
「彼がいなくなって、野球もしなくなりました。」
「どうして?」
「チームプレイだからですよ。」
「チームプレイ。」
「僕は、友人がいたからできていただけで、彼がいないとボールが回ってこなかった。」
「それは。。。」
「ま、僕に運動神経がなかったのもありますが。」
「嫌じゃないんですか?」
「嫌じゃないです。今は親友ではありませんが、同じ思想を持った学友はいます。」
「海軍学校に?」
「はい。一緒に数学を学んでいます。」
「私、海軍学校って銃の使い方とかそういうことばかりだと思ってました。」
「戦争は私も嫌いです。だからこそ。僕の出た中学は『ペンは剣よりも強し』というスローガンがあるんです。」
「ペンが。。。」


和枝は勉強は不得意ではないが、特に力を入れて思ったことはなかった。

「思想を持って勉強すると面白いですよ。」
近田が言った。

「なんだか、私の親友みたいなことを言いますね。」
「光栄だな。」
「え?」
「和枝さんからそう言われると褒められた気になったんで。」
「でも、戦争に行かれる可能性あるんですよね?」
「戦争を止めるのが僕の仕事だと思って勉強してます。」


和枝はその発言を聞いた時、なぜこの人物が一人目の見合いで振られたのかわからなかった。

「まあ、今日は僕のつまらない話をずいぶん聞かせてしまったね。」
「いえ、私、興味深かったです。」
「本当?」
「はい。」
「じゃあ、またお会いしましょう。」
「え?」
「今度はどこかのレストランとかで。」


スマートな誘い方じゃないのかもしれない。
でも、和枝はこの実直な青年を知り合えたことがとても楽しく思っていた。
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