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第十六章 最終学年

113、コングラチュレーション

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辻は出版社を訪れていた。
目的は望月だ。
学校のそばで望月と話しているのを見られると櫻のことを勘繰られかねない。
かといって、望月の家に行くことも憚られた。

「辻さん、今日は望月さん、来ないかもよ?」
カヨが応接セットで待つ辻に話しかけた。

「ごめんね。君は編集長で忙しいのに。」
「ううん。どうして、直接会わないの?」
「聞いてない?」
「うん。」
「今、櫻くんの運転手をしてもらってるんだ。」
「あら、だから出社もあまりしないのね。」
「あいつ、給料どうしてるの?」
「ああ、歩合よ。」
「月給じゃないんだ。」
「うん。だって、作家が忙しくなったらこっちも困るしね。」

辻はカヨが大杉と近い人物と知っていた。
だからこそ、もう櫻のことは知っているのだとも感じた。

「カヨくんも仕事やプライベイトで忙しいだろ?」
「うーん。その答えに関しては保留ね。」
「保留?」
「うん。あなたと私の関係、今微妙じゃないかしら?」
「やっぱり気が付いてる?」
「うん。だって、あの人堂々と言うんだもの。」
「そうなんだ。」
「辻さんらしくないわね。」
「うん。だから望月に会いに来た。」
「私がいると知っていても?」
「うん。」

そう聞くと、カヨは会釈をして、席に戻って行った。

そもそも学校が終わってからだから夕方に来たので、会えない可能性の方が高かったのだ。
そう、辻は思った。


「コングラーチュレーション!」
扉を開けて入ってきたのは、望月だった。
17時半である。
「やあ、みなさん!って言ってももうすぐ帰るか。」

と、あまり周りを見ず、スタスタと自分の席に望月は行ってしまった。
急いで辻はその席に行った。

「あれ?辻くん?」
「ああ、君に会いに。」
「伝言でもしてくれればよかったのに。」
「いや、急に思い立ってね。」
「ああ、辻くん、女難の相が出てるね。」
「わかってるんだろ。」
「ああ。でも、いい機会だよ。」
「いい機会?」
「そう、コングラチュレーション。」
「祝われるタイミングじゃないが。」
「違うよ。ボクが。」
「え?」
「和子の100日祝いしたんだよ。」
「そんな時期か。」
「ちょっと遅くなったけどね。」
「お祝い渡さないとな。」
「いいよ、辻くんからは今は給金だってもらってるし。」
「それは対価だよ。」
「ぼくさ、風船みたいな生活してただろ。だから、書けないけど、労働もいいもんだと持ってね。」
「どうして出社を?」
「今ならさ、サラリーの人の気持ちがわかる気がしてさ。」
「君はいつも書くことに真っ直ぐだな。」
「まあさ、櫻くん、株と同じで待つことだよ。」
「株とお同じ?」
「上がったり下がったり。下がった時見るとだめだよ。でも、長期運用すると計算上儲かる。」
「櫻くんは株じゃないよ。」
「人の気持ちもそう言うもんだってこと。」


望月の表現は独特だったが、辻の気持ちが少し落ち着いたのは確かであった。
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