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第十六章 最終学年

118、words of love

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櫻はフランス語準備室に来ていた。

てっきり辻と二人きりになると思っていた。

先客がいたのだ。

「ああ、櫻くん。」
「先生、こちらの方?」
「ああ、一年次に編入した坂下モナさんだよ。」
「え?」

モナが立ち上がって、櫻に向かって礼をした。
「あ、えと、ごめんなさあい。日本語、まだちょっと。」
「え?」

辻がニコニコと紹介した。
「あの、櫻くん、モナくんはね、ずっとフランスに住んでいて、日本が初めてなんだ。」
「それって?」
「ハーフだよ。」
「私、初めて会いました。」
「そうだね、綺麗だろ?」
「はい。」

少し、櫻の中でざわついた心が芽生えた。
でも、話ができる相手がこの学校では彼だけなのかもしれない。

「先生、私、フランス語の挨拶もできないです。」
「ボンジュールでいいんだよ、」
「ああ、そっか。」


櫻はモナに向かって挨拶をした。
「ボンジュール、モナ」
「メルシボク」

ありがとうと言われたことはわかった。
座学だけではダメなんだなと痛感した。

「ねえ、櫻くん。」
「はい。」
「モナくんは日本語、君はフランス語を教え合ってはどうかな?」
「え?」
「僕が極力入らないようにね。」
「そんなこと出来るんでしょうか?」
「君に今までできなかったことはあるかい?」

吹っ掛けられたような気がした。
しかし、櫻はこれを好機とすることにした。

「先生、わかりました。じゃあ始めましょう。」


それから1時間はチグハグな会話でお互い、緊張していた。
しかし、不意にことは急変した。

「えっと、サクラ」
「ウィ」
「好き」
「え?」
「サクラ、ワタシ、」
「フランス語で言えないけど、私、モナさん好きです。」


辻が拍手をした。
そして、3人で、笑った。
「英語になってしまうけど、words. of loveだね。」
「え?」
「愛の言葉ってことさ。」

モナも英語はわかってるようだった。

「先生の言葉のセンスはいつも絶妙ですね。」
「そうかな?」
「でも、ワタシ、負けませんよ。」
「そうだね、櫻くんの成長は著しいからな。」
「でも、どうなんでしょう。」
「何が?」
「日本ではあまり同性同士で言い合ったりしません。」
「いいんだよ。」
「え?」
「きっと、近いうちにみんな言うようになるさ。士農工商の残物がもう消えてきてるからね。」


櫻と辻の会話をモナはわからなそうだったがニコニコ見ていた。
この少女は本当に純粋なんだな、と櫻は思った。
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