大杉緑とは俺様だ(完結)

有住葉月

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第4章 結婚して変わったこと

10、伊藤との約束

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俺の名前は大杉緑だ。

君たちを残念がらせてしまっているかもしれない。
俺が急に真面目に生きてしまっているから。

訂正した書類を持って、終業後、伊藤の家に行った。

「おう、よくきたな。」
「ああ、夢中で読んだよ。」

伊藤の下宿は四畳半の小さな部屋だった。
部屋の隅にたくさんの本が重ねて置いてあった。

「不自由はないのか?」
「どう言う意味だ?」
「お前みたいにサラリーももらってて、小さいかなって。」
「ああ、活動は金がかかるからな。移動も多いし。食事をしながら話を聞くこともあるしな。」

伊藤は苦しい生活をしているからといって俺にたかってきたことはなかった。
いつもこざっぱりしたスーツを着ているし、ある意味、これもスマートな生き方かと思った。

「俺、訴訟できること、いくつか書いてきたんだ。」
「ああ、それは助かるな。」

訂正がたくさんしてあるその書類を伊藤は丁寧に読んでくれた。

「大杉、短時間にすごいな。」
「え?」
「ここまで訴訟の内容まで書いてくれるとは期待以上だよ。」
「でも、俺、これが裁判所に通るかはわからないんだ。」
「ああ、それは俺も思ってる。」
「伊藤は何が問題だと思う?」
「これが、逆だったら絶対訴訟できると思う。」
「逆?」
「会社が被害者だった場合だよ。今回はそれが社員だから困ったものだ。」
「やっぱりそこかあ。」

大杉と伊藤は考え込んだ。

「なあ、でも大杉」
「ん?」
「訴訟を起こす前に、今書記長たちの幹部が現地に行ってるだろ。その人たちの診断書とか被害とか逃れようのないものがあれば、国は突っぱねられないかもしれない。」
「本当に?」
「幹部たちが帰ってくるのは今週末の予定だ。その時に、この訴訟文を持っていこう。」
「じゃあ、俺も行っていいか?」
「是非って言いたいんだけどな。」
「どうした?」
「実は、お前の親父さんが裏で動く可能性がある。」
「親父が?」
「お前の会社は官庁系の訴訟を請け合う弁護士事務所だろ。」
「そうだけど、それは官庁系ってだけで。」
「裁判所が大杉に動くかもしれない。」
「そんな国が動くのか?」
「用心した方がいい。しかもお前は新婚だ。サチさんは以前活動していたことが周りに知られたら、もっとまずいぞ。」

と言うことで、今週末の話し合いには俺は参加できなくなった。
しかし、その結果を踏まえて、再度書き直してほしいと依頼された。
伊藤の思慮深い対応を俺はありがたく思った。
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