望月アグリと申します

有住葉月

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第7章 新生活

3、夕飯の中で

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望月アグリと申します。

辻さんのお宅に行ったお話をしていましたね。

と言うことで、私は辻さんのお宅の豪勢なことに驚いておりました。

「やあ、アグリさんも。」
いつも爽やかな辻さんです。
ヨウスケさんにも見習って欲しいものです。

夕飯は洋食をいただきました。
辻さんと三人でお話をしましたが、私の心は先ほどのブルーのワンピースに奪われていました。

「アグリさん、どうかした?」
辻さんが気にしてくれました。
「あ、いえ、」

思い出すたびに、あの綺麗なワンピースが私の心を奪います。
私はあれを着たかったんでしょうか。

「辻くん、トイレットをお借りするよ。」
「ああ、女中に場所を案内させるよ。」
広いお屋敷なので、厠の場所さえもわからないとは。

「ねえ、アグリさん」
「はい。」
「何か気になってるでしょう?」
「え?」
「だって、さっきからぼんやりして。」
「ああ」
「望月が帰らないこと?」
「いえ、そうではないです。」
「ならどうしたの?」
「実は。」
「うん。」
「先ほど、洋装店の前を通ったんです。」
「ああ、うちもあそこに頼んでるよ。」
「あら、そうだったんですか。実はそこに飾られたワンピースが」
「欲しくなったの?」
「そうではないんです。」
「欲しくないのに気になる?」
「そうなんです。」
「そうれは、恋だね。」
「え?」
「そのワンピースに君は恋をしたんだよ。」
「洋服に恋するなんてあるんですか?」
「ものにだって気持ちはあるかもしれなだろ。」
「そう言うものですか?」
「帰りに、一緒に寄ろう。」
「え?いいんですか?」
「あの店の雰囲気も本当にいいからぜひ行ってみて欲しいしね。」
「でも、私お買い物するお金もないですし。」
「ウインドウショッピングでもいいじゃないかな?」
「ウインドウショッピング?」
「見るだけってこと。」
「それって失礼じゃ?」
「うちはいつもたくさん買ってるから大丈夫。」
「助かります。私、こんなことは初めてで。」
「物事には急に恋に落ちることがあるんだよ。」
「そう言うものなんですか?」
「その気持ちを大切にした方がいい。」
「でも。」
「大丈夫。とりあえず、お店に行ってみよう。」

そんな話をしていたら、ヨウスケさんが戻ってきました。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないです。」

ヨウスケさんには内緒です。
この出来事が私の運命を変えることになるとはこの時は思ってもみませんでした。
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