望月アグリと申します

有住葉月

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第7章 新生活

8、夢のお話、冨樫さんと

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望月アグリと申します。
さて、私の夢の話にお付き合いいただきありがとうございます。

ヨウスケさんと話した翌日、いつものように冨樫さんのお宅にお邪魔しました。

「あら、アグリさん、今日は早いね。」
「冨樫さんにお話聞いていただきたくて。」
「あら、どんな話かい?」
「私、夢を見つけました。」
「おお、早く見つけたね。」
「そうなんです。」

「で、どんな夢なんだい?」
「洋装店で働きたいんです。」
「洋装店!」
「驚きました?」
「そりゃ、驚くよ。職業婦人の人気職業だろ。」
「そうみたいですね。」
「あんた、子供抱えてやってくのかい?」
「そのつもりです。でも最初は色々難しそうです。」
「どうしてだい?」
「修行には最初の2、3年住み込みになるそうなんです。」
「そうすると、赤ん坊と暮らせないね。」
「そこが困るところです。」
「じゃあ、子供が育つまで待つのかい?」
「できれば、群馬の両親にも手伝ってもらいたいなって。」
「子供と会えなくてもいいのかい?」
「週末は帰れるそうなので、週末だけお母さんしたいです。」

ふと、冨樫さんは厳しい顔をしました。
「あんたの夢はいいと思うよ。でも、赤ん坊、放っておいて夢を追いかけるのってのは何か違うんじゃないのかい?」
「え?」
「子供は守ってやらなきゃならないんだ。愛情を注いでやらなきゃならないんだ。それがわかるかい?」
「私だって、一緒にいたいです。でも、子供に恥じない親になりたいんです。」
「恥じない親?」
「あなたのせいで、夢をあきらめたのよって子供には言いたくないんです。」

冨樫さんは畳んでいた手拭いをそっと横に置きました。
「私の嫁じゃないから、うるさいことを言うつもりはないよ。でも、子供もアグリさんもいい状態になるようにしなきゃ、ダメだと思う。」
「たとえば?」
「東京に赤ん坊とその面倒をみる人を呼んだりとかね。」
「ああ、その手がありましたか。」
「あんたの嫁ぎ先は厳しいんだろ。実家のお母さんも弟さんがいるって言ってたしね。とりあえず、うまくいくように考えてみな。」

冨樫さんに話して良かったです。
私は、群馬にずっと預けようと思っていましたから。

と言うことで今日はこの辺りで失礼します。お粗末さまでした。
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