前世で犬用の徳を積んだ僕は、前世犬の人間を愛の奴隷にできるらしい。

いんげん

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叔父さんが語る、僕の秘密。

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午後の講義を受けて、犬飼に送ってもらい家に帰り着いた。

玄関には見慣れない革靴が並べられている。父の物よりも大きい。
一体誰の物だろう。
鍵は掛かっていたし、わざわざ靴をきちんと並べる泥棒もいないだろうし、結構良い品のように思える。

「…まさか…」
「おかえりぃ~、蛍。久しぶりだね」

エントランスに走ってやって来た男性に抱きつかれた。
173㎝ある僕より、上にも横にも大きい…僕の叔父だ。

「一年ぶりですね、叔父さん。いつ日本に帰ってきたんですか?」

昴叔父さんは、母の弟で、とてもユニークな人だ。
本人曰く、さすらいの占い師、スピリチュアル伝道師と…よく分からない職業を名乗って、世界を旅している。

フラフラと日本に帰ってくると、我が屋にやって来て過ごすのが常だ。

「さっき姉さんに迎えにきて貰ったんだよ。ちなみに、姉さんは仕事に戻ったよ」
叔父さんに差し出された手をとり、靴を脱いで家に上がった。

「そうですか、ちなみに何処に行ってたんですか?」
まるでプリンセスかのように、叔父さんにエスコートされ、リビングへ到着した。

ごく自然に鞄をとられ、引かれた椅子に腰掛けた。

叔父さんは、とてもいい加減なのに、何故か周囲から嫌われたりせず、いつの間にか場に溶け込んでいる。
昔から、ちょっと変わっているけれど、沢山遊んでくれて大好きだった。

「ブラジルの秘境に行っていたんだよ。素晴らしい所だった」
目の前に座った叔父が手を組んで僕を見つめる。
人好きのする垂れ目の端には、うっすらと皺が刻まれている。

「夢中になっていて、蛍の高校卒業に間に合わなかった。ごめんよ」
叔父さんのこういうマメな所が周囲の人の心に響くのだろう。

実の両親よりも、ずっと叔父さんの方が僕の行事にも関心があった。
高校は全寮制という事もあり中々会えなかった為、小さい行事にも沢山来てくれた。

「そんな…僕も、もう大人ですから」
「そう!そうなんだ!蛍も、もう大人なんだよ。だから来たんだ」
叔父さんが、懐から何か巾着を取り出した。
僕は首を傾けて、その様子を見つめた。

「君も大人になった。だから、ずっと話さなかった大事な話をしようと思う」
巾着を握りしめた叔父さんが、いつになく真剣な顔をした。

「大事な話ですか…」
なんだろう、想像がつかない。
実は僕は、叔父さんの子供とか?
いや…それは無いか。

「そう、蛍の…いや…蛍自身を守るためにも知っておいた方が良いと思う」
えっ…まさか…両親の隠し子が居て、財産を狙っているとか?
僕を亡き者にして…みたいなドラマ?
少し不安に思い、じっと叔父さんを見つめた。

「教えて下さい…」
「…俄には信じがたいかも知れないが…」
「…はい」
ごくりと息を呑んで叔父さんの言葉を待つ。

「蛍は、昔から動物に好かれているよね。特に…犬に」
「え?そうですけど…」

話が思わぬ方向に進み、変な声が出てしまった。

「不思議に思った事は無い?普通はあんなに好かれないよ」
「まぁ、確かにそうですけど…」
大概の犬たちは、僕に激しく愛情を示してくれて、良くしてくれた。

「それはね…」
叔父さんが占い師の顔をして、勿体ぶって話し始めた。

「それは、君が…前世で犬用の徳を積んだからなんだ」
「…」
話の腰を折ることになりそうで何も口に出来ないけれど、突っ込みどころが多すぎる。

前世、犬用の徳…。

「怪しい人物を見る目をしないでくれ。蛍にそんな目で見られると泣いちゃうぞ」
「…すいません、聞きます。続けて下さい」
僕は頭を下げて、ぎゅっと眼をつぶり、真剣に叔父さんに向き合った。

突拍子も無いこの話を信じる訳では無いけど、叔父さんが悪意をもって僕にこんな話をするはずも無い。

「蛍は、前世で沢山の犬の保護に尽力し、犬を守る為に命を落とした」
そう…なのだろうか?
前世と言われても…まったく何も記憶が無いからピンとこない。
そう言われればそうかもと思うし、君は前世でガチョウだったと言われれば、そうなのかと思う。

「その前世で積んだ犬用の徳のせいで…犬と、前世が犬の人間を魅了できる」
「前世が犬の人間…」
まるで、漫画みたいなお話だ。

「それが子供の頃はまだ良かった。好かれるだけだ。でも君ももう大人になった。大人のフェロモンが出る。そうすると、きっと…不埒な事をするやからも出てくる。そこで…叔父さんの登場だ!」

叔父さんの語気が強くなり、僕は目を見張った。

「じゃーーん!」
古くさい効果音と共に、巾着の中からペンダントが転がり出てきた。

銀の細い鎖に、淡いエメラルドグリーンの雫型の何かが付いている。

「何ですか、それ」
「それはね、古代中国のガラス細工なんだ。とても霊験あらたかな品で、神犬の霊気が宿っている。だから…これを持って前世犬の人間に近づくと、熱くなって知らせる」
「は…はぁ…」

叔父さんには申し訳ないが、正直…叔父さんの考えた漫画のネタを聞かされている気分だ。
とても現実の話には思えない。

「これを肌身離さず身につけているんだよ」
叔父さんが立ち上がり、ペンダントを手にとると、僕の首に掛けた。

すると…不思議な事に、ペンダントが夕焼けのようにオレンジ色に変わって、温かくなった。

「…え…これって…」
「前世が犬の人間に近づくと熱くなってしらせる…」
前世が犬の人間…って、まさか叔父さん…えっ…。

「叔父さん…前世…犬?」
「ワン」
40歳の叔父が、お茶目に笑った。

長身で旅で鍛えられた逞しい体をしているのに、ちょっと可愛く見えるから不思議だ。

「蛍、いいかい?危ない人間を見分けるだけじゃ安全とは言えない。今から、犬の気を持つ人間を愛の奴隷にする儀式を教えてあげる…」

確かに何の変哲も無いペンダントが色を変え、蓄熱するという不思議な現象があったけれど、正直にいって信じがたい。

叔父が昨日見たアニメの話を語っているような…。

「…儀式…」
「そう、それはね…」


お座り、お手、頭を撫でる。

それを順番に行うことによって、前世犬の人間を魅了の状態から、完全なる愛の奴隷にし、服従させることが出来る。上に、犬の気を持つ人間は、犬としての能力が開花するらしい…。

愛の奴隷って何だろう。
犬としての能力って?
全くピンと来ないし、僕は、この話を…殆ど信じていなかった。






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