前世で犬用の徳を積んだ僕は、前世犬の人間を愛の奴隷にできるらしい。

いんげん

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犬飼の前世は、きっと貴族。

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「昨日は、すまなかった」
朝一番で我が家に迎えに来てくれた犬飼は、深々と頭を下げた。

「良かった…犬飼が元気になって! 心配で昨日は、あんまり眠れなかったよ」
僕は、犬飼の肩をポンポン叩いて喜んだ。

「それは、申し訳ない…移動中は寝ると良い。着いたら起こそう」
犬飼が、眼鏡を押し上げながら、ちょっと照れくさそうに言った。

「ありがとう」
犬飼自らが車のドアを開けて、エスコートしてくれた。

いつも思うけど、これ、もし僕が女の子だったら、絶対惚れてるよね。
まぁ実際、犬飼が綺麗すぎるし、別の世界の人間すぎて、女の子達は、遠くからキャーキャー言うだけで、近づいて来ない。

時々チャレンジャーがこちらに来ようとすると、よく見かけるキリリとした短髪の女性に止められている。確か…鈴木さんだったかな。


「蛍…今日の朝食は、コーンスープだったか?」
隣に乗り込んだ犬飼が言った。

「えっ!なんで…」
まさか…セーターに黄色いシミが?!
慌てて胸元を見る。
「違う、大丈夫だ、付いてない。ただ匂いがしただけだ」
犬飼が、しゅっとした高い鼻をクンクンさせた。

「えー、ごめん。ちゃんと歯も磨いたし顔も洗ったのになぁ」
どこかに付いているのかと思い、手や腕をクンクン嗅いだけれど、わからない。

「いや、多分普通は分からないと思う…」
「そういえば、犬飼は鼻がいいよね」
だから香水をつけている人が苦手だと言っていた。体臭よりも人工的な強い匂いが嫌いだって聞いて、もともと何もつけないけど、気をつけようって思ったんだった。

「あぁ…でも、昨日から何だか急に、もっと識別出来るようになった気がする…」
「へぇ…不思議だね。あっ…ちょっと離れようか?」

僕が少し腰を浮かせて、窓の方にずれようとすると、犬飼の手がかざされた。

「必要ない。蛍の匂いは好きだ。ずっと嗅いでいたい」
「ぷっ…あはは…犬飼でも冗談言うんだ、しかもそんなに真剣な顔で」
「…」
笑われた犬飼は、ちょっとスンっとした表情で前を向いた。

「蛍、眠いのだろう。休んだらどうだ?」
「うん、ありがとう、そうする」
拗ねているような犬飼が、おかしくて、可愛くて、僕は犬飼の方にすり寄った。

犬飼の眉がピクリと動く。

「じゃあ、おやすみ」
「っ!」
わざと犬飼の肩に頭を載せて目を瞑った。

意外と鍛えてるのか犬飼の腕は硬い。
身長は犬飼の方が、7センチくらい高かった気がする。

犬飼って見た目は繊細で美しいマネキンみたいだけど、近づくと男性だなぁ…と当たり前なことを、うつらうつら考えている間に僕は眠りに落ちた。


犬飼のお家の車は、我が家の車よりも、もっと乗り心地が良い。
きっと運転手さんも上手なんだろうな。
だからだろう、すっかり寝入った僕が目を覚ますと、犬飼の膝の上に完全に崩れ落ちていた。

温かい膝の枕。
ちょっと硬いけど心地良い。
犬飼の膝の部分のズボンを、こしょこしょと擽って見る。
犬飼はいつも清潔な良い匂いがする。癒やされる。

「蛍…目が覚めたか」
「うん」
くるりと体勢を変えて上を見ると、犬飼が優しく微笑んでいた。

うわぁぁ…美形の笑顔って…破壊力が高いな。空気もフワァって柔らかく、聖母マリアかとおもう神々しさだ。

「犬飼…」
彼の頬の手触りが気になって手を伸ばすと、犬飼の方からすり寄ってきた。

かっ…かわいい…

なんだか凄く、きゅんきゅんする!

眼鏡越しの涼し気な目元は、いつもは冷たい印象を与えるのに、今は温かく感じる。

「……」
犬飼が少し顔をずらして、僕の手のひらが、彼の口を覆う。
「っ!」
犬飼の舌が、僕の掌をチロリと舐めた。

僕の体がブルっと震えた。
頭がフリーズした僕は、金魚のように口をパクパクさせて、犬飼を見つめ続けた。

そして、外で犬の声がして二人の止まっていた時間が動き出した。

「犬飼!遅れちゃうよ」
僕は、起き上がって鞄を探した。

「…あっ…ああ、そうだな」
逃げ出すように車から降りた僕のあとを、犬飼がぴったり寄り添ってついてきた。

おかしい…なんだかおかしい。

何が変なのか分からないけど…今日の犬飼は、ちょっと違う気がする。

なんだろう…何が違うのかな。


「ただいま帰りました」
講義が終わり、今日も犬飼に送ってもらい、帰宅した。

「おかえり、蛍」
昴叔父さんが出迎えてくれ、鞄まで受け取ってくれた。

「どうだった?大学は。そろそろ愛の奴隷はできた?」
発売した好きな小説を買ってきた?くらいの気軽な感じに聞かれても…。
「できませんよ」
半笑いで答えてしまって、後から失礼だったかなと後悔する。

「えぇ?おかしいなぁ。前世犬の人間って鼻が良いから、蛍の周りに集まっているはずなんだけどなぁ…やっぱり犬だし、礼儀正しいのが多いのかなぁ、ちょっと失礼」
叔父さんが大きな体を屈めて、僕のペンダントの鎖に指をかけた。

叔父さんが近づいて、少し温かくなったペンダントが服の内側から引き出された。

「むむむ!!なんと、これは!」
ペンダントを手にとった叔父さんが、驚いている。

「えっ…どうしたの?」
「なんだ、蛍。もう1人愛の奴隷ができているじゃないか」
「は?そんなわけないです!」
眉を潜めて、思わずジトっと叔父さんを見やった。

「またまた~、照れているのかい?ホラ、ここに1つ骨のマークが刻まれて居るだろう?これが、愛の奴隷マークだよ」
目の前にかざされたペンダントには、犬飼に会った後に出来た傷がある。

「…これはきっとキズがついただけで…」
僕はペンダントを取り返して、再び服の中にしまった。

「思い出して、やったんだろう儀式を。お座り、お手、頭なでなで」
叔父さんの手が僕の頭を撫でた。

「僕は、犬飼にそんなことっ!」

僕の頭に去来する、先日の出来事。
いやいや、あんな不可抗力みたいな普通の状況で、儀式認定されるはずない!

そもそも、そんな馬鹿な話…。

「へぇ…犬飼っていうんだぁ。きっと毎日蛍のことしか考えられなくなっているよ。ちゃんと躾けないと、襲われちゃうからね」
「そ…そんな…犬飼は僕を噛んだりしませんよ!そ…そもそも、彼の前世は、犬じゃないですよ、貴族ですよきっと!」
頭の上の叔父さんの手を叩き落とした。

「犬も色々種類があるからね。血統書付きのアフガンハウンドとかだったんじゃないかな」
「もう!いい加減にしてください!レポートをやるので失礼します」
僕は、小脇に抱えられた鞄を奪い返し、逃げるように階段を登った。







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