華族の悪役夫人に転生。復讐されないよう、家庭円満を目指します。

いんげん

文字の大きさ
5 / 38

三途の川の所在地

しおりを挟む


夢が終わらない。

しかも、わざわざ夢にする必要はない、全てのシーンがリアルに再現されている。
かわやで用を足し「おしっこ出ました?」と聞かれる場面は、絶対に必要ない。

しかも、なぜか胸が張って痛い。
お腹も、本格的に空いてきた。

何なんでしょうか。

これは、自ら三途の川に行かないとならないのでしょうか。

仕方なく、精も根も尽きた体で病室を抜け出した。
フラフラする。
それは病後設定のせいなのか、この三神絹子を演じた女優さんが、細すぎるせいなのか。
足とか細すぎて、折れるんじゃないかと思う。

ちょっと名前をど忘れしましたが、少し影のあるはかなげ美人さんなのだ絹子役のお方は。
その微笑みは、まさに華のようだった。
正統派ヒロインも、悪役も、小悪魔も、社会派のドラマでも大活躍していた。

こんな美人に生まれてみたかったなぁ、という願望までかなってる夢だな。一挙両得だ。

でも、失って初めて気がついた。

健康そのものの自分の良さを。

「まっすぐ、歩けない……疲れる」

病院の塀に手を添えながら、歩く。
夜は急患が来たりして、騒がしかった。
ひと目も多く、夜が明けそうな、今やっと抜け出せた。

「夢なのに、つくづく、リアル……でも、すぐあるはず」

病院の厠で会った高齢のご婦人に聞いたのだ。
「三途の川は、どこですか」と。そしたら「病院の外よ」と教えて下さった。
「お若くて綺麗なのに、お気の毒なことです」と悲しい顔をされたので「いいえ、これは仮の姿で、本当は違うんです」と苦笑いして頭を下げた。

病院の外は、三途の川。
頭で唱えながら歩いた。

ついに鉄柵の門が見えてきた。
半分は開いていて、半分は閉じている。

「もうすぐ……もうちょっと」

さく、さく。
地面の霜柱が良い音を立てる。
寒い。
絹子が細すぎて、寒さが骨身に染みる。
あったか肌着をください。

吐き出した息が白い。

「息が切れる……肺が冷える……」

これも夢。

信じられない。

もう、リアルすぎて引くから、非現実的な事を望んでみよう。

「神に、もう一度、会いたい」

そうつぶやいたら、塀の向こう側では騒がしい音がした。
ブオン、ブオン。
機械のエンジン音?
三途の川、船にエンジン搭載してるのかな。
ありがたい。

「神……よいさま。三神 宵さま。今すぐ会いたいです」

でも、流石にそんなに都合よくないか。

「宵さま」
「……」

そう、そう。
この人だ。
目の前に立つ、コートとスーツ姿の神。
顔が寒いのでしょうか、手で抑えてらっしゃる。

「宵さま!本当に来てくれた!」
「君は、こんな所で何をしている!」
「えっ……」

笑顔で迎えてくれるかと思ったら、怒鳴られた。
でも、よくお似合いのコートを脱いでバサッと私にかけてくれた。

絹子の身長では、神のロングコートは地面につく。

「なぜ、外にいる! どこへ行くつもりだった!」
「あの……えっと、すぐそこの」
「あの男と待ち合わせているのか! 残念だったな、私で! とにかく戻るぞ」

主人の怒鳴り声に、側近が駆け寄ってきて、心配そうに私達を見ている。
あー、あの方は、今をときめく若手俳優さん。

この映画、お金かかってるから出演者豪華だったんだよね。

「聞いているのか!」
「は、はい! あの……えっと私、外に用事があって」
「何だ」
「三途の川です」
「はああ!!」

地を這うようなお声が、恐ろしく、良い。

「病院の外は三途の川と聞きました」

そこを渡れば、この夢は終わるだろう。

「誰がそんな馬鹿なことを! しかも、いくら君が、やんごとなき出身であろうと……まさか、そんな世迷いごとを信じるなんて……やはり、どこかおかしいぞ!!」

神は、演劇のように早口でまくし立て、私の肩を掴んだ。
手が大きい。
背も大きい。

「戻るぞ!」
「待ってください!」

また、リアルな夢に囚われるのは困る。
何とか、ごまかして、門を潜ろう。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

愛しいあなたは竜の番

さくたろう
恋愛
 前世で無惨に処刑された記憶を持つ少女フィオナは、今世では幼い頃から番である竜族の王に保護されて塔の中で大切に育てられていた。  16歳のある日、敵国の英雄ルイが塔を襲撃しにきたが、なんとフィオナは彼に一目惚れをしてしまう。フィオナを人質にするために外へと連れ出したルイも、次第に彼女に離れがたい想いを感じ始め徐々に惹かれていく。  竜人の番として育てられた少女が、竜を憎む青年と恋に落ちる物語。 ※小説家になろう様に公開したものを一部省略して投稿する予定です。 ※全58話、一気に更新します。ご了承ください。

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

処理中です...