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写真館
しおりを挟む春が来た。
博弥さんは、一歳になり――私たちは、写真館に居る。
仕事に行ったはずの宵さまに呼び出され、あれよ、あれよと準備は進んだ。
写真館は、とてもレトロで、むしろ此処を写真に撮りたいと思う場所だった。
カメラは、大きな箱で、撮影場所には真っ赤なソファと、艶のある木の丸テーブルが置かれていて花も飾られている。
「どうして、突然写真なんですか?」
宵さまの髪を整えようとする助手の方が「すいません、少し屈んでいただけますか」とぼそっと声をかけている。
足を広げ、やや屈んだ宵さま。
その畏まったスーツは、結婚式なんかで見たことがある。
胸ポケットにチーフも挿してあって、より品格が増している。
「嫌なのか……」
「いいえ、楽しいですよ」
私は、白地の高そうなお着物を着ている。
博弥さんも、貴世実さんも、いつもより良い着物を着せられている。
「そうか……」
現代では、写真館なんて20歳の時に成人式の前撮りをしたくらいだ。
懐かしい。
でも、現代と大きく変わらないように思う。
カメラマンが居て、助手の人が居て。
「そういえば、昔は写真に写ると魂が抜けるとか言われていたみたいですね」
大河ドラマとか、映画とかで見た気がする。
「馬鹿馬鹿しい」
「えー、そうですか? 私は、少し気持ちわかりますよ。昔の人にとっては、自分の姿が映し出されるなんて、とても理解できないものだったはずです」
話しているうちに、宵さまの髪から櫛が離れた。
今日は、ゆるい七三分けに整えられている。
この髪型でも、負けないお顔素晴らしい。
「素敵ですよ」と頷いたら、思いっきり眉を顰められた。
「……抜かれた魂は、どこに行くと考えていたんだ?」
「え? どうでしょうか」
「写真館で人は死なない。射殺じゃない」
「そうですけど」
真剣な顔で言うことじゃない。
つい笑ってしまった。
「迷信や流言は嫌いだ」
「宵さまは、そうでしょうね」
「君は、信じるのか?」
「信じませんけど――思いもよらない不思議な事って、意外と近くて起きているかもしれませんよ」
「……それは」
「お待たせしました!」
準備ができたと声が掛かり、私たちの会話は途切れた。
セットに家族四人で並んだ。
私が椅子に座って宵さまが立つ予定だったけれど、大きすぎてバランスが取れず、もう一脚椅子が足された。
博弥さんが私の膝に座り、宵さまの御膝には、貴世実さんが。
「では、撮影していきますね」
カメラマンが、黒い布を被った。
四角い木箱から飛び出したレンズが、私たちをとらえている。
「動かないでくださいね」
むずむず揺れる博弥さんを、ぎゅっと抱いた。
貴世実さんは、相変わらず大人しい。
「撮ります!」
カシャン
シャッターを切る音がして
マグネシウム閃光器が光を放ち
――――
―――
――
―
私の魂が、絹子から飛び出した。
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