華族の悪役夫人に転生。復讐されないよう、家庭円満を目指します。

いんげん

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妹に聞く、表絹子。

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 妹が遊びに来てくれた。そう、会いたかったのである。

  姑さまと、宵さまが、事前に妹の情報を開示してくれた。おかしな話だが、「あんたの妹の薫子かおるこは、あんたの6つ下で、結婚して京都に嫁いだらしいわね」とか妙に説明口調なの好きすぎる。宵さままで「君と妹は、付かず離れずな距離感だったと、君の父上から聞いたことがある」とか昨夜教えてくれた。

 私たちは、応接室で話を始めた。
 窓の外では、息子二人が女中に見守られながら遊んでいる。
 時よりこちらを見て、一生懸命背伸びして手を振ってくれる姿が愛らしい。

「もー、やっとお会いできましたね。お義兄様が許可してくださらなくて、なかなか来られませんでしたのよ。ほら、こちらも強く言えないですし」
「え、あー、そうですか」
 宵さまは、早い段階から良いと言って下さっていた、気がしたのですが。誤解が生じているのかな?
 世の中は、ハヤリカゼとかあったしね。援助を受けたという負い目も、過度な遠慮を生むのかも。
「それにしても、やはり、女は子供を産むと変わると言いますが、本当ですね。私は自分が変わった気はしないのですが、お姉さまは別人ですね」
 薫子さんのパンチが冴え渡っている。ちょっと猫っぽいお顔立ちが可愛い。
「その事ですが……実は、私、数年前に高熱を出して昔の記憶が曖昧になってしまったのです」
「まぁ、大変。でも、どおりで」
 薫子さんの目が真ん丸になった。
「そんなに違いますか?」
「えぇ、別人のようです」
「昔は、どんな感じでした?」
「むかしは……」

 薫子さん、顎に指を当てて空を仰いだ。

「正直に?」
「包み隠さずお願いします」
「お姉さまは、美しく、気高く器用で、何事も卒なくこなしますが……人の話しは聞かないですし、周囲を見下す人でした。思い込みが激しくて、根に持つ人で……」

 薫子さんの言葉に、いたたまれなくなって来た。
 絹子、映画の中だけじゃないのね。そうだよね。

「でも、そんな私がよく宵さまと結婚をしましたね」
「そこは、私も驚きました! 自由恋愛なんて夢見ているのも学生のうちだけ。将来、親の決めた相手と結婚するものと、お姉さまも諦めていたと思いますが、まさか……」
 薫子さんが、周囲を気にするそぶりを見せて、声を潜めた。
「あんな貧民上がりの化け物、と金切り声を上げていましたよ」
「……」
 私は、心が重く、口も目も閉じた。

「でも、お金がないのは半分、お姉さまのせいですし、渋々しぶしぶ、本当に渋々、お受けしてました」
「私のせい?」
「まさか、それもお忘れで⁉」
 信じられない、と薫子さんが仰け反った。
「はい、すいません。教えてください」
 きゅっと膝を閉じて、頭を下げた。
「まぁ、お姉さまがどこまで信じていたのか分かりませんが、騙されたんですよ。アイツに」
「アイツ?」
「そこもですか⁉ 何も覚えていないじゃないですか」
「いや、そ、そんな事ないわ……あーえっと……あの、かしら?」
「もう、嫌ですわ。忘れてしまったかと思いました」
 薫子さんが、右手をパタパタ振った。
 おぉ、ますぐちは、ここに繋がるのか。
「いえ、ぼんやりと。ぼんやりと出てきました」
「本当に、あの男ときたら良いのは、昔から顔だけ!海外の閉山している鉱山を騙されて買って。その穴埋めに、お姉さまを通じてお父様に出資させたんですよ」
「おぉ……」
 そういうことだったのか。
 合点がいった私は、うんうんと強く頷いた。あれ? でも、絹子……まさか、その後も、その男と繋がってたの?
 嘘でしょう。騙されたと分かったあとも、ズルズルと金づるになってたの?

「あれ? ますぐちさんは、幼馴染で、爽やかで綺麗な、優男っぽい彼ですよね?」
 正統派、美形俳優が演じる、絹子の幼馴染。そして思い人。
 彼には、そんな裏の顔が? 映画では、ちょっとしか出ていなかったからな。しかも二人の恋心は、純 な感じに表現されていた。あれは……絹子側の視点だったからか。
「そうですよ、顔だけクソ男です」
「やっぱり……」
「お姉さまは、昔っから、あの男を美化して、いい所しか見てなかった。私は、昔から怪しく思ってましたよ。言ってることは立派だけど、勉学も運動も、からっきし駄目で。ご友人からも評判が悪い。狭い世界なのに、次から次に女に手を出す。なのに、お姉さまったら、枡口のお兄様は、才気があるから皆に疎まれているのです!とか言っちゃって」
 
 薫子さんの遠慮ないマシンガントークが続く。きっと絹子という姉に、苦労させられてきたのだろう。実家も没落寸前にされたわけだし。

「お姉さまも、その他大勢の女の一人なのに、お兄様は、私を愛していて、他の女たちは、可哀そうだから相手をしてあげているだけよ、とか!」
 
 言葉の刃がグサグサと刺さる、痛みを感じているのは私なのか、絹子なのか。

 薫子は止まらない。

「お父様も、少しは怪しいと思ったみたいですけど、お姉さまはすっかり騙されていて、この投資にのってくれれば、駆け落ちしようとか言われて信じてたのですよ。お父様には、投資してくれれば、お父様の決めた相手と結婚すると言って。私は、彼の夢を応援できれば、それでいいの!とか何とか言っちゃってぇ」
 顔は笑っているのに、目が全然笑っていない薫子さんは、ヤンキーみたいに見えて来た。
 それに絹子が映画のイメージより、ずっと痛い子だった。
 映画の一部分だけだと、お金で買われた上に、血のつながらない子供までやってきてたし、宵さまは金の亡者みたいな扱いだったし……少しくらいは同情してたのに。酷い奴だけど。
 色々と印象が変わって来たな。

「絹子もしょうもない女だったのですね……」
「お姉さま……」
 しまった、また外野みたいな感想を。
「やっと目が覚めたのですね!」
 薫子さんは、私の手をとって、しかと握った。
「良かったです! これぞ怪我の功名ですね。私、どうもおかしいと思ったのですよ、お姉さまが自らの手で子育てを――しかも博弥さんまで育てるなんて。絶対に裏があって、格差とか見せつけるように、ネチネチやっていらっしゃるとばかり思ってました。今日、あったら二人とも、良い子で朗らかで驚きましたのよ」
「あは、あははは、死にかけて心を入れ替えましたの」
「ほほほほ」
「時に薫子さん。以前の私は、どうやら博弥さんの母親まで快く思ってなかったようなのですが……何か知ってます?確かに旦那様に他に子が居たら、快くないとは思いますが……私と結婚が決まる前ですし」
 私の質問に、薫子さんは、再び周囲を見回して顔を寄せた。

「あのくそ男、我が家をだました後、さすがに実家を勘当されて、しばらく海外に身を潜めて。戻ってからは女の世話になって暮らしているらしいです」
「まさか……」
「えぇ、その芸妓の所ですよ。向こうからしたら、お姉さまは、一番の金蔓のお義兄さまを奪った憎い女。仕返しに、あんたの男とってやるわ、みたいな仕方のない泥仕合。もう私、目も当てられなくて……なのに、お姉さま友達1人もいないでしょ、手紙に書いてくるのですよ」
「すいみません」
「まぁ、面白おかしく読んでましたけど」
 悪戯な猫のように、にこっと笑う薫子さんは、とても愛らしい。
「お手紙、読みます?」
「いいえ、後生です。燃やしてください」
「お姉さまぁ! 私、やっとお姉様と分かり合えた気がいたします」
 
 薫子さんが、私をぎゅっと抱きしめた。
 私は薫子さんを抱きしめ返しながら思った。

 まさか、絹子、その男の心を取り戻すために、宵さまの宝石を売って――貢いでたのか?
 あぁ……ホストとかに嵌って身を亡ぼすタイプだったの?
 しかも、絶対に周りが悪いと思っている。

 もしかして――その男と一緒になる為に、宵さまも博弥さんも呪い殺して、遺産を相続とか……。

 嫌な想像過ぎて、寒気がしてきた。




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